「ノージャパン」はどこへ......韓国ソウルの街角に日本語看板が急増! その背景は?
いま、ソウルで日本語看板を掲げる店が話題になっている。日本風の店構えで看板表記も日本語のみという店が登場したのだ。これまでも日本風店構えの日本式居酒屋は存在したが、日本語とハングルを併記していた。最近、ハングル表記は注意してみないと気づかないほど小さい店や表記は日本語のみでハングル表記のない店が現れた。 【写真】ソウルで増える、日本語看板 ▪️ 日本語看板の増加、ソウルの新風景 明洞に隣接する乙支路3街は、日本が韓国を統治した時代の日本人居住区で、いまでも日本家屋が残っている。その日本家屋の奥にある中華料理店「自由軒」は、日本式中華料理を謳っている。店名や暖簾から店頭に掲示したアルバイト募集告知に至るまで日本語で、店内も日本の中華料理店に倣っている。メニューはもちろん韓国語だが、メニュー以外のハングル表記は注意してみないとわかりにくい。 自由軒の隣にある居酒屋「ロバタカミ」はすべて日本語だ。英字はあるがハングルはなく、掲示しているポスターも日本語だ。自由軒とロバタカミが店を構える路地には日本語看板が並んでいて、まるで東京か大阪のようだという声や写真をSNSに投稿直後、日本に旅行中かと尋ねられた人もいる。日本語看板は龍山区の龍理団通りや若者の街として知られる大学路でもみられるという。 ▪️ 多様な言語看板、法的枠組みと現実 韓国は屋外広告物法施行令で、看板や広告物など韓国語表記を義務付けている。事情によって外国語とする場合も外来語表記法に則ったハングルを併記しなければならない。 実際には梨泰院や東大門、中国人居住区など、地域によって英語やロシア語、中国語などの看板があり、最近はタイ語やベトナム語も目にするようになった。自治体等に相談する市民もいるが、法令上、面積5平方メートル以上の店舗や建物の4階以上に設置された表示について是正を要求できるとされているだけで、処罰条項がないことから取り締まりなど行われていないのが実状だ。 乙支路3街で19年4月から居酒屋「由佳の家」を経営する岩嵜さんは日本語表記に肯定的だ。岩嵜さんによると、昨今のハイボール人気で日本式居酒屋が増えてきたという。日本式居酒屋が軒を並べ、日本語表記が話題になれば日本料理を求める人が集まってきて地域の活性化にも繋がるだろうと話す。 ▪️ 伝統と革新、ソウルの日本式ビジネス 日本旅行を機に本格的な日本の味を求める韓国人が増えているが、新たに誕生した日本語看板のオーナーは韓国人で、域内にある日本人の店は「由佳の家」が唯一だ。味の違いを知った人が利用する期待もある。 乙支路3街は韓国有数の印刷団地として知られている。かくいう筆者もソウルで創業した12年から事務所を構えていた場所で、当時、日本式料理を提供する店は、とんかつ店が一軒あるだけで、日本語は日本人観光客を目当てに併記する店が数軒みられる程度だった。 就労人口に対して飲食店が少ないことからいずれの飲食店も活況を呈していたが、韓国の景気後退が始まった17年頃から廃業する工場が増え、その廃工場を転用したカフェや飲食店が若者の間で人気となった。ところがコロナ禍で廃業が加速し、それに伴って飲食店の閉店も相次いだ。週末は若者で溢れるが、平日は人通りがめっきり減った。日本語看板が話題になると人通りが戻る期待があると「由佳の家」の岩嵜さんはいう。 ▪️ 文化交流か模倣か、看板論争の核心 日本語看板に関して賛否両論が渦巻いている。日本語に限らず、さまざまな言語表記で個性を出す店が増えて興味深いと前向きにとられる声や「日本っぽい雰囲気だと知ってわざわざ訪ねてくる利用者がいる」という店員もいる。その一方、日本の統治に言及し、過去を忘れて日本文化をもてはやすかのようだと拒否感を示す声もある。 19年下期から広がった日本製品不買運動と続くコロナ禍の外出規制で多くの日本料理店が苦境に立たされ、閉店した店や商売替えをした日本料理店も少なくない。日本寄り政権の誕生と空前の日本旅行ブーム、ハイボールブームが相まって日本式居酒屋が急増するが、筆者ら日韓ビジネス従事者がノージャパンを忘れることはない。 27年の次期大統領選で反日政権が誕生する可能性はゼロではなく、日本ブームは選挙戦がはじまる26年下期以降、どうなるか予断を許さないと考える。新たに開店した日本式料理店が果たして消費者に受け入れられるのか、さらには何軒が生き残ることができるのか。一過性のブームで終わる可能性は否めない。
佐々木和義