滝沢馬琴&葛飾北斎の天才同士の新しい"尊さ"に感動!漫画家・大友しゅうまの“映画紹介マンガ”で初心者も『八犬伝』が丸わかり
伝説の8つの珠を持つ8人の剣士が、運命に導かれて集結し、呪いをかけられた里見家を救うために壮絶な戦いに挑む。日本ファンタジーの原点と称えられる「南総里見八犬伝」を圧倒的スケールで描く“虚”のパートと、その物語の作者・滝沢馬琴の知られざる半生を描く“実”のパートが交錯するエンタテインメント超大作『八犬伝』(公開中)。 【画像を見る】「南総里見八犬伝」を知らなくても楽しめる!わずか4ページで『八犬伝』の魅力を伝える、大友しゅうまの描き下ろしマンガ いまから200年近く前の江戸時代の人々を夢中にさせた大ヒット小説は、いったいどのように誕生したのか?今回、映画紹介マンガシリーズをSNSで発表し、単行本「泣ける映画大全」も刊行したばかりの漫画家・大友しゅうまが本作を鑑賞。クリエイターとして「作家の滝沢馬琴と浮世絵師の葛飾北斎、2人の関係性がすごく刺さった」という彼が、映画『八犬伝』の紹介マンガの描き下ろしと共に、本作の魅力や見どころについて語ってくれた。 ■「馬琴と北斎はこんなに親しい仲だったんだ!というギャップのおもしろさを感じた」 「南総里見八犬伝」を執筆中の馬琴が、友人の北斎を聞き役に、ストーリーを語る様子が描かれる“実”のパート。主人公の馬琴を演じる役所広司と、北斎役の内野聖陽、芸達者な名優2人が見せる軽妙なやりとりの芝居を観た大友は「2人はこんなに親しい仲だったんだ!というギャップのおもしろさを感じました」と話す。 「馬琴先生が初めて北斎に物語の始まりを話した時、『どう?おもしろいと思った?』って、ちょっと不安そうに聞くんですよね。それに対し、北斎が『おもしろい!』と興奮して、いま聞いた話からイメージした絵まで即興で描いちゃう。北斎のああいう素直なところもいいし、そんな北斎にうれしくなっちゃう馬琴先生もかわいかった(笑)」。 大友自身、連載マンガを描く時は、まずネームを担当編集者に見せ、ダメ出しを受けるという「大事だけど、キツい作業」があるため、「馬琴先生も、新作の構想を初めて北斎に聞いてもらう時は、ドッキドキだったと思います」と馬琴の気持ちに深く共感。 「そこで、あの天才の北斎が『おもしろいよ』とちゃんと言ってくれたので、心のなかでは小躍りするくらいうれしかっただろうなって思いました。あのやりとりで、2人の関係がよりステキに見えましたね。お互いの才能を認め合ったうえでの会話に、新しい“尊さ”みたいなものがあって、観ていてすごく楽しかったです。そんな2人に対して、ちょっと嫉妬しているような馬琴の奥さんの想いもよくわかるし。あの天才同士の2人にしかわからない、ほかの人が絶対に入り込めない空気感がたまらなくよくて。僕はそこが一番好きでしたね」。 ■「馬琴と鶴屋南北の意見、両方に共感できた」 鑑賞中、心情的に馬琴サイドに立っていた大友が、「ハラハラしながら観た」と振り返るのは、馬琴が歌舞伎作者の鶴屋南北と創作にまつわる長問答を繰り広げるシーン。北斎と「東海道四谷怪談」の歌舞伎を見に行った馬琴は、舞台の裏側を見学する際に、その作者である南北と出会った。 “勧善懲悪”という軸を大切にする馬琴と、人の悪行や闇が“実”であるという考えで「怪談」の物語に落とし込んで娯楽性を求める南北。思考が真逆なクリエイター同士が激しい議論をした。 「物語のなかだけでも、正義が報われてほしいと願う馬琴先生の熱い想いは、本当にかっこよくて美しい。でも、そうでありたいよなあと思う反面、現実のうまくいかない部分を描くというのも、やっぱりすごくおもしろい。どちらかと言うと、僕は鶴屋南北派の作品が好きなんですけど、馬琴先生と南北の意見、両方に共感できました」と話しつつ、「馬琴先生はあんなふうに言われちゃったら、つらかったはず」と馬琴を思いやる。 「まさに物語を執筆中の大事な時に、自分とは真逆の鋭い意見をぶつけられたわけで、『もうこれで、馬琴先生、書けなくなるのでは?筆を折っちゃうんじゃないの?怖い!』って、すごく心配したんですよ。もちろん、相当悩んだんだろうけど、結果的に馬琴先生が書き続けることができて、よかったとホッとした気持ちでした」。 ちなみに、最新刊「泣ける映画大全」では、様々なジャンルの映画の感動どころを紹介している大友。本作で彼自身が泣けたシーンについて聞いてみたところ、「終盤、目が見えなくなってしまった馬琴先生と、彼の息子さんの妻で、執筆をサポートしているお路の姿を見た北斎の反応」という答えが返ってきた。「北斎が2人の姿を思い出して、ポツリとつぶやいた言葉に無性に感動して、めっちゃ泣きました。そこは、映画の冒頭部分のシーンとも対になっているので、ぜひ注目してほしいですね」。 ■「物語の先が気になって、どんどんその世界観にのめりこんでいった」 実は今回『八犬伝』を観るまで「馬琴の『南総里見八犬伝』は詳しく知らなかった」という大友は、「出てくる役者さんたちも豪華だし、映像も迫力満点だし、丁寧に描かれているので、元の物語を全然知らなくても、めちゃくちゃ楽しめる!」と太鼓判を押す。 「やっぱり『南総里見八犬伝』の物語をそのまま映画にするだけでなく、作者の馬琴先生側の苦悩や、北斎との友情という“実”のパートが一緒に描かれることによって、『八犬伝』のいろんな側面が見えるというよさがあったと思います。すごく絶妙な構成だったと感じました」。 馬琴と北斎、2人のキャラクター同士の関係性に惹かれた“実”のパートに対し、大友が“虚”のパートで印象的だったのは、なんといっても「ストーリーのおもしろさ」だったという。「八犬士たちが不思議な運命に導かれて、どんどん集まっていく。最初は敵だと思って、刀を交え合った相手が、まさかの同じ珠を持っていて、同じ牡丹の形の痣があって、仲間だとわかる。そういう展開って、少年マンガっぽくて、アツいんですよね」。 元の物語を知らないことによって、「馬琴からストーリーを初めて聞いている北斎と同じ立場になって、北斎に感情移入しながら、一緒になって『南総里見八犬伝』を観続けたという感覚が味わえる」のもポイントだ。「北斎と同じように、早く続きが見たい!という感じで、物語の先が気になって、どんどんその世界観にのめりこんでいきました」。 “虚”のパートで、大友が特に好きだったキャラクターは、里見家を救うために、名刀・村雨を手に戦いに挑む犬塚信乃(渡邊圭祐)。「八犬士の中のリーダー的な存在で、とにかくシンプルにかっこよかったですね!信乃と犬飼現八(水上恒司)が、芳流閣の屋根の上で戦うシーンのVFX映像も、めちゃくちゃ力が入っていて、観ながらドキドキしました。現八が縄を放って、信乃を捕らえようとした時、信乃があえて自分で屋根から落ちていくっていう一連のアクションがもう圧巻すぎ…屋根の上というシチュエーションを大胆に活かした、スピード感あふれる戦闘は本当にすごい!」と感動した。 ■「馬琴の書いた物語が、いろんな形でいまの名作にも影響与えていて、改めて『八犬伝』の偉大さを感じた」 江戸時代に書かれた作品であるにも関わらず、本作で「南総里見八犬伝」の話を初めて知った大友は「古さはまったく感じなかった」と強調する。「自分にとっては、まさに“新作”という気持ちで観ていました。例えば、伏姫の八つの珠が散り散りになるところは、ちょっと『ドラゴンボール』っぽいなって思ったり、名刀・村雨から水がほとばしるところや、八犬士にそれぞれ牡丹の形の痣があるところは、『鬼滅の刃』っぽいなと思ったりして。馬琴の書いた物語が、いろんな形で、いまの名作といわれるマンガにも影響を与えていることがわかるんですよね。改めて『八犬伝』の偉大さを感じました。この新鮮な感覚は、本作でしか味わえないと思います」。 馬琴が「南総里見八犬伝」を刊行開始から28年かけて完結させたという事実にも「胸を打たれた」と大友はしみじみ語る。「いまでいう『ONE PIECE』とか『こちら葛飾区亀有公園前派出所』とか、数十年単位の長期連載のマンガと同じように、長い歳月を費やしてエンタメ作品を書き続けていた人が、200年近く前からいたんだ!ということも驚きでした」。 老いてもなお、みずみずしいクリエイティビティを持ち続け、小説を書くこと、絵を描くことをやめなかった馬琴と北斎。2人の姿には、かつて「藝大受験で3浪した時、自分のやりたかったこと、夢や好きなことがわからなくなった時期があった」という大友自身にも、強く響くものがあったようだ。 「2人とも、やっぱり楽しいんだろうなぁって。好きじゃないと、ああやって人生を賭けて、ずーっと一つのことを続けるって、きっとできないと思うんです。好きなことをやるのが一番だなと、2人の姿を見ていて思ったんですよね。僕は大学の4年間で、ようやく自分の好きなことがマンガだと気づけて。好きなものを見つけることができて、やりたいことがある!って、すごく幸せなことなんだなと、この映画を通して、改めて実感させてもらった気がします」。 取材・文/石塚圭子