社説:カスハラ条例 働く人守る環境作りを
理不尽な要求や暴言を客から受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)に対し、働く人を守る取り組みが問われている。 東京都は先月、全国で初めてカスハラ防止条例を成立させた。来年4月1日に施行される。 条例は、カスハラを「顧客らから就業者の業務に関して行われる著しい迷惑行為で、就業環境を害するもの」と定義した。企業や公的機関をはじめ事業者、都などの防止へ向けた責務を盛り込んだ。 都は過去3年で約半数近くの職員がカスハラを受けたという。個人攻撃を防ぐため、京都や滋賀でも職員の名札を姓のみ表記する自治体が増えている。 カスハラは昨年度、精神障害による労災認定の原因項目に追加され、認定は52件に上った。うち45件が女性で、より弱い立場の相手を狙って攻撃する現状が浮かび上がる。被害で病欠や退職に追い込まれるケースもある。対応を一人に任せず、組織的に守ることが欠かせない。 都の条例は罰則がなく、防止への実効性をどう高めるかが課題となる。 業務改善やサービス向上につながる要望との線引きも難しい。 都は有識者らでカスハラに当たる行為を示す指針案を先月まとめた。妥当性を欠く要求や暴言、土下座の強要、長時間の拘束などを列挙している。 その上で、客としての正当なクレームは「不当に制限されてはならない」とし、十分に配慮するよう求めた。作成中の対策マニュアルと併せ、全国の官民に参考となるのではないか。 企業も対策を本格化させている。東京商工リサーチによると、カスハラを受けた企業のうち約13%で休職や退職が発生している。人手不足の中、切実な問題だ。 高島屋は基本方針をホームページに掲載し、土下座の強要や交流サイト(SNS)での個人情報拡散などがあった際、「対応を打ち切り、来店を断る場合がある」と明記した。JR西日本は悪質なケースには警察や弁護士と連携するとし、航空会社も共同で対処方針を策定した。 ただ、全国で7割以上の企業は対策を未実施とする調査もある。国レベルでカスハラの実態を把握し、定義や対応策の集約、普及を図ることも必要だろう。 社会が「カスハラは認めない」という意識を共有し、働き手が安心できる職場環境づくりへつなげたい。