あんこ地蔵様(9月16日)
「小川のあんこ地蔵様」の言い伝えが新地町にある。江戸時代の元禄期、全国行脚を重ねた家山という和尚が、山と海の幸に恵まれた心地良さにほれ込み、居を構えたとされる▼子ども好きで親しまれた。死期を悟ると、命亡き後も村人を救いたいと地蔵尊の建立を願った。完成を見届けて永眠し、地蔵に姿を変えた。住民の敬慕の念は一層深まり、いつしか「子どもの湿疹を治す地蔵様」とあがめられた。遺徳は今も地域に受け継がれる。月遅れの命日に当たる毎年8月、和尚の好物だったあんこを地蔵の口元に塗って供養する▼地蔵尊がある二羽渡神社の近くに、その男性は住んでいる。3年前、自宅敷地にあった旧母屋を民話語りの活動拠点に改築した。「先人の教訓が込められた古里の昔話を次世代へつなぐ場所にしたい」。町内外で活動する語り部たちが月1回ほど集い、話術を磨き合う▼100歳の小野トメヨさんも話者の一人。先月の賀寿贈呈式で「あんこ地蔵様」の民話を披露した。震災の津波で自宅を流された経験も伝え始めた。地域の安寧を願う姿は時を超え、和尚と重なって見える。きょう16日は敬老の日。紀寿の語り部の瞳に、気高い命の輝きが宿る。<2024・9・16>