レスリング・パリ五輪選手輩出の育英大学はなぜ強い? 「勝手に底上げされて全体が伸びる」集団のつくり方
2018年創立の新設校・育英大学のレスリング部が大きな注目を集めている。東日本大学女子リーグ戦で2年連続優勝。櫻井つぐみと元木咲良というパリ五輪出場選手を2人も抱えている。「ウチにはもともとスーパーはいない」と話す同大学レスリング部の柳川美麿(よしまろ)監督は、どのような視点で選手を見極め、どのようなアプローチで接して、強い“個”と“集団”をつくり上げたのか? (取材・文・撮影=布施鋼治)
今夏パリ五輪の舞台に立つ2選手を擁する育英大学
群馬県高崎市にある育英大学は2つのスポーツで脚光を浴びている。箱根駅伝では関東学生連合チームの一員として同大のランナーが走った年もあるので、ご記憶の方もいるだろう。もう1つはレスリングで、女子フリースタイル57kg級の櫻井つぐみと同62kg級の元木咲良が、今夏パリ五輪の舞台に立つ。 櫻井は2021年(55kg級)と2022年&2023年(ともに57kg級)の世界王者。一方、元木は昨年国内の二大選手権といわれる全日本選抜選手権と全日本選手権を連破し、その勢いで昨年の世界選手権では準優勝に輝きオリンピック出場切符を手にした。 櫻井や元木だけではない。女子68kg級で最後まで日本代表を争った石井亜海も育英大の学生だ。また非五輪階級ながら女子55kg級の全日本王者で、パリ五輪出場を目指す男子フリースタイル65kg級の清岡幸大郎の実妹・清岡もえは今後オリンピック階級に転向し、2028年のロサンゼルス五輪を目指す。 団体としての実力もホンモノで、今年1月14日の東日本大学女子リーグ戦では古豪の日本体育大にも競り勝ち2年連続優勝を果たした。 女子だけではない。女子より部員数は多い男子でも育英大出身でグレコローマンスタイル72kg級の原田真吾が昨年初めて同大出身の男子レスラーとして初めて世界選手権に出場し5位に入賞した。
「ウチにはもともとスーパーはいない。だから…」
育英大は2018年に創立したばかりの新設校で、他の強豪校に比べると歴史はほとんどないに等しい。いったい何が急成長の要因なのだろうか。同大レスリング部の柳川美麿(よしまろ)監督は「ウチにはもともとスーパーはいない」と話す。スーパーとはキッズ時代から活躍しているスーパーエリートを指す。 「インターハイで優勝しているのは石井だけじゃないですかね。あとは2位、3位の選手ばかり。元木なんてインターハイで1回戦負けしていますからね」 言葉を選ばなければ、無名の選手ばかり集まってきたことになる。柳川は「ウチはスカウトするにしてもゼロベース(実績なし)。そんなところに選手は普通来ませんよ」と説明する。 「だから来てくれた選手をどう強くするかを考える」 元木はインターハイで初戦敗退して落ち込んでいるときに、柳川監督から「君は1回戦で負けたけど、すごく伸びしろがあるよ」と声をかけられた。「いまは53kg級だけど、今後は57kg級にしたほうが可能性はあると思う」。そんなアドバイスに引き寄せられるように、元木は育英大に一度お試しで練習に行く。そのことが彼女の人生を大きく変えた。 「自分は大学でも厳しい環境でないと絶対に強くなれないと思っていた。育英は先生も一生懸命面倒をみてくれるし、選手同士も厳しくやってたので、自分もここでやってみたいと思いました」