ノムさんにとっては拡声器。監督や選手の「マスコミとの付き合い方」【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第106回
マスコミを上手に「使う」監督もいました。 ヤクルトなどで監督を務めた野村克也さんは、マスコミを"拡声器"として使うプロフェッショナルでした。選手への愚痴をわざとマスコミにぼやくのも、その選手はもちろんのこと、それが記事になって多くの人の目に触れることになるため、選手の気持ちを引き締める狙いがあったのでしょう。 ヤクルトや巨人、DeNAでプレーし、DeNAでは監督も務めたアレックス・ラミレスさんも、試合後の会見で選手の名前を出して褒めることで、選手たちのモチベーションを高めていました。試合後の記者会見は、マスコミを有効に使える場とも言えます。選手にあえて厳しいことを言ったり、相手チームに対して賛辞を送ったり。監督がどのように選手や野球と向かい合っているのか、世間に広く伝える場でもあるからです。 ファンとマスコミの関係性も変わってきました。1番の変化はメディア数の増加です。昔はテレビや新聞しかなかったのが、今ではネットメディアやyoutube、SNSなどでも発信できる時代です。 ただ、ニュースの「質」には差があるかもしれません。昔から、記者は足繁く監督や選手のもとを訪れて信頼関係を築いてきました。いい時も悪い時もそうすることで強い絆ができ、「この人だから」と大事な話をしてくれることもあるのです。 元ヤクルトの岩村明憲さんから、レイズ時代の印象的なお話を聞いたことがあります。当時のMLBアメリカンリーグの東部地区には、ヤンキースに松井秀喜選手、レッドソックスに松坂大輔投手が所属しており、岩村さんを取材する日本人記者は多くなかったとのこと。そんな中、ずっと足を運んでくれた記者とは今でも良好な関係を築いているそうです。 メディアが細分化して情報が溢れている時代ですから、本当に細かい情報も手に入れることもできます。しかし、幾多のニュースが溢れていている中で、輝くニュースがあるようにも思います。監督や選手との特別な信頼関係があったからこそ書けた記事かもしれませんし、書き手に注目してみても面白いかもしれませんね。 こんな時代でも、いえ、こんな時代だからこそ人間関係が一番大事だ、という話でした。 ★山本萩子(やまもと・しゅうこ)1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン 構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作