虎のソナタ 「打倒巨人」という言葉の下に 根付かせた藤本監督、生まれながらの岡田監督
(セ・リーグ、広島1-2阪神、12回戦、阪神6勝5敗1分、3日、マツダ)巨人の名将だった藤本定義が阪神にやってきて、ヘッド兼投手コーチに就任した。藤本は当時のトラ番記者によく言っていたそうだ。 【写真】「しんどいわ」ベンチでパインアメを食べる阪神・岡田彰布監督 「プロ野球界は巨人が支えてきた」 「巨人は強くなければいけない」 これに対して、トラ番記者はむかっ腹が立っていた。阪神のユニホームに袖を通しながら、なんで巨人、巨人なのかと。 やがて、監督に昇格して、トラ番に漏らす。 「やっぱり伝統ある阪神のユニホームに、監督として袖を通したら震えた。全身にサブイボが出た」 一気に親近感が増したという。やがて、監督とトラ番という立場で話をする中で、名将の真意が伝わってきた。 プロ野球を支えてきたのは巨人だが、それは強烈なライバル球団があって、そのライバルと競ってこそ、意味がある。巨人が強くなるためには、ライバルはさらに強くなくてはならない…。 巨人の監督が〝掟破り〟で阪神にやってきたのは、球界を今まで以上に盛り上げる使命を果たすためだった。 そうと知ったトラ番たちは、一生懸命に藤本を取材した。巨人にどこか引け目を感じていたトラ番にとって、巨人の選手を見下す藤本は頼もしかった。 試合前の甲子園一塁側ベンチ前。報道陣と話していた藤本が、巨人の選手が到着すると(当時のビジター球団は高校野球同様に一塁側ベンチ横から球場入りしていた)、そこに歩み寄って睨みつけた。巨人ナインに挨拶を〝強要〟したのだ。こっちが上だぞ!と言わんばかりに。 ビジター球場ではベンチに座って、ノックを受けている巨人の主力に対して「あのヘナチョコは何という選手や!」。知らないはずのない大選手だ。大声だから当然、聞こえる。困惑させた。 巨人だからといって、臆することなんてないぞ! 先頭に立って、阪神ナインを鼓舞した。 怖そうにみえて、かわいい一面も。チェンジになるたびにベンチ裏でたばこを吸う。短くなったタバコを扉の桟に置いておく。次のチェンジで再び吸う。これが縁起担ぎ。ある時、若いトラ番がこれを隠した(ひどいトラ番がいたもんだ)。すると、豪放磊落(らいらく)な藤本監督が必死で探していたそうだ。反省したトラ番は、二度といたずらはしなかった(当たり前だ)。 阪神ナインと、トラ番記者に「打倒巨人」という魂を根付かせたのが藤本監督だった。阪神での2度の優勝は58歳、60歳になる年。なのに、当時は「じいさん」と呼ばれていた。今の岡田監督よりかなり下だ。