高校無償化になぜ「所得制限」? 賛否くすぶる
なぜ「910万円」なのか
そこで、自民党と公明党は、誰でも高校授業料が無償になるのではなく、ある一定以上の所得のある世帯を対象外にしました。その分、浮いた財源の使い道については、低・中所得者向けの給付型奨学金を作ったり、私立高校授業料の免除・助成を拡大したりすることで合意したのです。自民党が所得制限をかけると表明した背景には、かつて民主党に対して「高所得世帯まで対象に含めるのはバラマキ政策だ」と批判していたことにつながります。 では、なぜ所得制限をかける世帯年収のラインは910万円なのでしょうか? これの根拠を列挙してみましょう。 ・所得制限の対象を全体の2割程度にする ・都道府県が実施する授業料免除制度のうち、最も手厚い京都府の支給対象を上回る額にする ・私立高校生への対象を中間所得層まで拡大する これにより、高校生全体の22%が高校授業料無償化の対象から外れ、約490億円の財源が生み出されると試算されています。
世帯年収で制限を設けることの是非
しかし、単純に世帯年収で区切ることには批判もあります。たとえば、共働きで世帯年収1000万円でも子どもが3人いる場合と、世帯年収500万円で子どもが1人いる場合では、子ども1人あたりにかけられる金額が異なります。これでは、子どもの多い家庭に不満が募り、子どもを生み育てることが経済的な損失・不公平になりかねません。 そもそも、均等に教育機会を与えるための解決方法として、高所得者世帯にその代価を支払わせることは、公平性に欠くという指摘もあります。さらに、親の経済力による授業料支払いの有無が、生徒間の関係に無用の亀裂を生みかねないといった危惧もあるようです。 このようなことから、所得制限に対する否定的な意見は少なからずくすぶっています。高校授業料無償化はあくまで公平に実施した上で、縮減された「特定扶養控除」をもとに戻し、高所得者の所得税増税で対応すべきという声もあるようです。 (南澤悠佳/ノオト)