ファンの期待と妄想を裏切る“納得”の急展開 1カ月後に迫ったWWE「レッスルマニア」の楽しみ方【塩野潤二アナ連載#4】
昨年10月、SNSの総フォロワー数が世界で10億人を超えるアメリカが誇る世界最高峰のスポーツエンターテイメントであるWWEのメイン大会「RAW」と「SMACKDOWN」の放送が日本で開始された。さらに先月27日(日本時間28日)に行われた「ロイヤルランブル」以降は、放送席の陣容を一新。自他ともに認める“WWEフリーク”の塩野潤二アナウンサーらが加わった。そんな塩野アナが、自らの実況回ごとにWWEの魅力や楽しみ方を振り返る連載コラム。一大イベントである「レッスルマニア」をおよそ1カ月後に控えた第4回目のキーワードは「感情移入」。
■WWEを楽しむために「感情移入できる」スーパースターは誰だ!?
レッスルマニアへ向けて、見ごたえのあるストーリーが着々と進行しています。今回はWWEの楽しみ方を、私なりにお話させて頂きます。 まずは、自分が『感情移入』できるスーパースター(選手)を探すと面白いと思います。かつてWWEは『ソープ・オペラ』と呼ばれていました。何故かと言うと、日本で言う『昼ドラ』のような愛憎渦巻くストーリーが展開されていたからです。登場人物を自分に置き換え、感情移入して楽しむこともドラマの醍醐味ですよね。 私がまず感情移入したのが、SMACKDOWN所属の女子スーパースター・ベイリーです。彼女は『ダメージ・コントロール』という悪のユニットのリーダーで、ダコタ・カイ、イヨ・スカイと共に活躍していました。ところが去年の秋頃、カイリ・セインとASUKAがチームに入り、日本人スーパースターが3人になると関係が悪化。女子特有のグループ内での仲間外れが起こり始めます。一見、みんな仲良しなんですが何となくベイリーだけが浮いていました。 それは次第にエスカレートし、ついにベイリーは控え室でイヨたちの陰口を聞いてしまいます。あの時のベイリーの哀しみの表情! まさに昼ドラ!! そして、ベイリーはリング上でイヨたちに『ワタシ、ワカルヨ』と日本語で通告しついに決裂。姉さんはわかっていて我慢してたんだ…というものでした。 おまけに先週ダコタにも裏切られ、姉さんはひとりぼっちに。レッスルマニアのイヨとのタイトルマッチは、皆がベイリー姉さんに感情移入して応援するでしょう。しかし、イヨにとってもレッスルマニアでの防衛戦はキャリア最大の一戦。ストーリーの完成度も相まって、イヨ・スカイvsベイリーは今年のレッスルマニアの裏メインと言えるのではないでしょうか。 そしてドリュー・マッキンタイアも、感情移入できるスーパースターです。最初は、ムスッとして愛想のない男だなと思っていたのですが、よく見てみると、とても味のあるスーパースターだと思うようになってきました。時折自分勝手な振る舞いもありますが、それは彼の意志の強さゆえのこと。本当は実直で真面目な人なんだろうなという人間性が私には刺さりました。映画なんかでも、情熱を内に秘めて抑えた演技をする登場人物って何かカッコ良いですよね。 さらにマッキンタイアは、一度WWEに解雇され、再び契約を勝ち取った苦労人。コロナ期にチャンピオンになった為、大観衆の前でもう一度チャンピオンに返り咲きたいという素直なストーリーがグッと来ます。 このようにWWEは、いかにユニバースの感情を揺さぶるかが大事。スーパースターの人生が垣間見えた時に、ユニバースは彼らを応援するのです。 今週のRAWのラストでもそれは見えました。イリミネーション・チェンバーでやっとの思いでレッスルマニアでの挑戦権を得たマッキンタイア。打倒ブラッドラインに意識が行っている王者のセス・ロリンズを襲い、『俺だけに集中しろ。正しいことをしろ』というメッセージを投げかけました。 これは私の深読みかもしれませんが、ブラッドラインにタイトルマッチを邪魔されずに、正々堂々チャンピオンになりたいという彼の思いは、実況しながら『わかるぞ、ドリュー!』という気持ちにさせられました。 また、この『深読み』するというのも楽しみ方の一つです。ストーリーや結果を予想するのはとても楽しい時間です。我々スタッフの間でも、PLE(プレミアム・ライブイベント)ごとに勝敗予想の表が作られ、皆で予想して楽しんでいます(※賭けてはいません)。 ということで私が勝手に予想するレッスルマニアの主要カード。まずジミー・ウーソvsジェイ・ウーソの兄弟対決。これはWWEが温存してきたカードだと思うからです。ロイヤルランブルでもその予告編のような場面がありましたし。 グンターが最長保持記録を更新し続けているIC選手権の相手は、来週のRAWで決まります。6名による挑戦者決定戦に勝つのは、サミ・ゼインでしょうか。サミは等身大のスーパースター。スランプから諦めず立ち上がるストーリーは、多くの人が共感するでしょう。ただ私は、同じく決定戦に臨むチャド・ゲーブルに期待しています。娘のためにグンターに勇敢に立ち向かうというストーリーには、同じ子を持つ親として感情移入できるからです。同様にエントリーした中邑真輔にも注目。WWEに溶け込み過ぎてもはや日本人であることすら忘れてしまう彼ですが、やはりレッスルマニアでたぎって欲しいものです。 そしてレッスルマニアの初日に、コーディ・ロリンズvsロック・レインズの史上最大のタッグマッチが浮上しましたが、これがコーディ・ロリンズ・マッキンタイアvsロック・レインズ・シコアに発展するんじゃないかと予想します。マッキンタイアがロリンズと介入なしのタイトルマッチをする為に、共にブラッドラインを倒しに行くというストーリーです。 もちろんレインズvsコーディ同様、勝てば翌日のタイトル戦は『ブラッドラインの介入なし』の条件付きで。そうすることで、レッスルマニア2日目のレインズvsコーディ、ロリンズvsマッキンタイアのストーリーがより膨らむのではないかと思います。もちろんそんな妄想を裏切った上で、納得の展開を見せてくれることを期待しています。 最後に今週のR-トゥルース氏ですが、ゲームの宣伝シーンのみの登場でした。イリミネーション・チェンバーでは、一人だけオーストラリアと間違えてオーストリアに行っていましたよね。ん? オーストリアということは、あのグンター先輩の故郷。まさかレッスルマニアで、トゥルース氏がグンター先輩に挑戦!? と深読みしてしまう私は病気です。 文/塩野潤二 Ⓒ2024 WWE, Inc. All Rights Reserved.