少女「誘拐」騒ぎ 渦中のロマ民族とは/差別と迫害の1000年
少数民族ロマをめぐる一連のニュースが欧州で注目を集めています。ギリシャでロマの夫妻が金髪少女を誘拐した罪に問われているほか、これとは別にアイルランドでは警察がロマ夫婦から金髪少女を「保護」した後、DNA鑑定で実の親子と分かったため親に返すという騒ぎがありました。こうした出来事は1000年にわたるロマ差別と関係しているという見方があります。ロマとはどういう民族なのでしょうか。
8~10世紀にインドから欧州へ
ロマは欧州全体で1000万~1200万人程度いるとみられ、欧州で最大の少数民族です。特に多いのはトルコ(275万人)、ルーマニア(185万人)、ロシア(83万人)、ブルガリア(75万人)です(いずれも推定)。 移動型民族として知られますが、これは好んで移動しているというより、差別のために土地が買えなかったり定職に就けなかったりしたためという説もあります。現在では定住している人も多いようです。 ロマは8~10世紀ごろインドから欧州に移ってきたとされます。エジプトから来たと信じられていたこともあって、かつては「ジプシー」と呼ばれていました。ジプシーの呼称は現在では差別的だとされています。黒い髪と浅黒い肌が特徴とされ、そのために白人の子供と同居していると怪しまれやすいのですが、白い肌で金髪のロマもいるとのことです。 欧州では独自の言語や服装を法律で禁じられるなど、迫害され続けました。15世紀初めにはハンガリーやルーマニアの貴族の奴隷にされた人も多かったようです。米ホロコースト博物館によると、第2次世界大戦中、ロマはユダヤ人のようにナチスに迫害され、当時欧州に住んでいた推定100万人のロマのうち20万~50万人が殺されました。
居住地から強制排除されることも
今も欧州各国はロマ差別を続けていると、人権団体アムネスティ・インターナショナルは指摘しています。暖房や上下水道のない暮らしを強いられ、十分な医療を受けられず、一般の学校に通えず、居住地から強制排除されることもあるといいます。例えばフランス当局が2010年、不法移民取り締まりの一環としてロマの住むキャンプを強制排除し、8000人以上をルーマニアとブルガリアに強制送還して問題になりました。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会も、多くのロマが「偏見と根深い社会的疎外」の被害者になっていると認めています。3分の1が失業中で、9割が貧困ライン以下で生活をしており、寿命はほかの欧州市民より10~15年短いということです。 最近の一連の出来事の背景には、ロマが子供を誘拐して働かせているという古くからの偏見があるとの見方もあります。