空気いらず、循環型社会に貢献する次世代タイヤ技術、BSの「エアフリーコンセプト」に初試乗
空気を入れないのでパンクもしない
空気を入れる必要がないタイヤとして注目されているのがブリヂストン(BS)が開発した「エアフリーコンセプト」だ。空気を入れなくて済むということは、当然ながらパンクすることもない。そんな夢のようなタイヤだが、その開発の真意は使用済みタイヤの再利用を目指したものだった。ここでは試乗とともにエアフリーコンセプトの可能性を展望した。 【写真】パンクしないタイヤ「エアフリーコンセプト」をもっと見る 「エアフリーコンセプト」とはどんなタイヤなのか。タイヤと言えばこれまでは高圧の空気で膨らませ、それが車体の荷重を支えていた。エアフリーコンセプトではその代わりに特殊形状のスポークを活用する。空気をまったく使わないことから、パンクしないだけでなく空気圧管理などタイヤメンテナンスは一切不要。路面に接するゴムの部分についても、リトレッドによる張り替えで対応できるようになっているのもポイントとなる。 特に注目したいのが、路面から受けたショックの吸収方法だ。今までのタイヤなら充填された空気がバネのような役割を果たすわけだが、エアフリーコンセプトでは特殊な形状のスポークが衝撃に応じて変形して、その代わりをつとめる仕組みとなっている。つまり、このスポークの素材や造り込み次第で乗り心地やその特性を変さられることを意味する。そのため、車重や使い方に応じた設計が重要になるわけだ。 また、パンクしないだけにスペアタイヤが不要となることも見逃せない。最近はスペアタイヤを非搭載のクルマも増えているが、パンク修理キットも不要となるわけで、その分だけ軽量化につながる。それは燃費や走行性能にプラスとして作用し、特にバッテリーによる重量増が避けられないEVにとってはメリットが大きいと言えるだろう。
使用済みタイヤを素材ベースで精密に分解
そして、この「エアフリーコンセプト」開発の背景にあったのが、ブリヂストンが目指すサステナビリティビジネス構想である。 タイヤは使うことによって摩耗し、トレッド面の溝がなくなれば新しいものへと交換する。このタイヤをどう再利用するかが世界的課題となっており、ブリヂストンによれば、日本では廃棄タイヤの63%が工業用燃料向けに焼却されてきたという。 一方で欧米ではマテリアルとして再利用されることが多く、この違いは日本が早くからリサイクルに取り組んできたことや、資源としての再利用に関心が高かったことが影響しているようだ。 そもそもタイヤが石油から作られていることは多くの人が知っているところでもある。石油は有限な資源であり、その上で燃やすことでCO2が排出される。つまり、いかに消費を抑え、排出されたCO2を循環させるかが、サステナブルな社会の実現には欠かせない。そこでブリヂストンはバイオマス由来の循環型社会を作ることを最大の課題に掲げ、2050年までに「作る、使う、再生」における完全循環を目標としているわけだ。 その上で使用済みのタイヤを素材ベースで精密に分解する技術の開発も進む。タイヤには天然ゴム以外にも様々な構造材や配合剤が加えられているが、これらをリサイクルする技術もENEOSと共同で開発を進められているという。 さらに夢のある面白い話としては、天然ゴムの代わりに、砂漠に自生する植物「グアユール」を使う技術も開発中であるということ。これが実現すれば、現在の天然ゴム産地地域への一極集中の緩和につながり、資源の持続可能性を大きく高められる可能性も出てくる。すでにこの素材はインディレースで使われるタイヤのサイドウォールにも使用され、サステナブルに向けたトライアルは一歩ずつ進み始めていると言っていいだろう。 つまり、エアフリーコンセプトはこうした背景の下で開発が進められている新たなタイヤなのだ。ただ、空気の代わりに樹脂素材である特殊形状スポークを使うとなれば、そこで廃棄物が生まれてしまうのではないか。そんな疑問も湧く。 これについてブリヂストンは、エアフリーコンセプトそのものが繰り返し使われることを前提に開発されていることを強調する。つまり、トレッド面が摩耗したらその部分をリトレッドによる交換で対応し、この特殊形状のスポーク部分はそのまま継続して使うことになるわけだ。とはいえ、長年使っていけば樹脂である以上、スポークの劣化も進むはず。それに対しても耐用限度がきたら粉砕してリサイクルできる材料にして対応しているとのことだった。