人間の出生を否定する“反出生主義”とは 「幸せがあっても崩れる。なら最初から存在しないほうがいい」 哲学者に聞くその思想、“誕生肯定”の提唱も
■哲学者「反出生主義は500年後もあるだろう」 “誕生肯定”も提唱
「反出生主義」を研究する哲学者の森岡正博氏は「予備知識がないと、『反出生主義の考えを持つ人は、家庭問題や悲惨な事故・災害の経験がある』と思いがちだが、そうした誘導には反対だ」と主張する。「ふと思いついたり、理詰めで考えたりする人もいる。学術研究が進んでいないため、経験が影響するかは客観的にわかっていない。直感は大体正しいと思うが、学者としては『わからない』と言うしかない」。 反出生主義が普及した背景には、(1)説明に納得した上で同意する「インフォームドコンセント」が一般化した、(2)SNSの発達で少数意見が見えるようになった、(3)経済問題など将来の見えない社会で、子どもを産もうと思わなくなった、(4)社会の脱宗教化と道徳意識の向上が進んだといった4つの要因がある。 森岡氏によると、「大学で話すと、『よくわかる』と賛成する学生もわりといる」という。 田中さんの「99人の幸せな人がいても1人が不幸なら、100人生まれないほうがいい」という考えは、99人が1人を助ける社会であればいいのではないか。森岡氏は「宇宙に誰もいない中で、次の瞬間に『99人の幸せな人と、1人の不幸な人が生まれた』『0人のまま、誰も生まれなかった』という2つの宇宙を考えた時、後者のほうがいいという考え方だ。前者の場合、産む・産まないは『生み続けるのが良い』と思う99人にかかる責任であり、1人でも不幸な人がいたらその人を全員で救う義務がある」との考えを述べた。 ただ、反出生主義自体は紀元前からあり、「最近出てきた話ではない」と指摘。「人間が自意識を持ってしまったことが全ての根源で、500年後もその時の形として存在するだろう。人の集団のあり方に関係しているのではないか」と推察した。 一方で森岡氏は近年、「誕生肯定」の概念も提唱している。「私の中には、この世に生まれないのが一番よかったという“誕生否定”があるが、もう生まれてきてしまっている。残りの人生で『生まれてきてよかった』と思い、生まれてきたことにイエスと言える“誕生肯定”をもって死にたい。そうした考え方について、もっと多くの人と話したい」と語った。(『ABEMA Prime』より)