英最大野党・保守党、ケミ・ベイドノック氏を党首に選出
イギリスの最大野党・保守党は2日、ケミ・ベイドノック氏(44)を新たな党首に選出した。ベイドノック氏は黒人女性として初めて、イギリスの主要政党を率いる。 保守党は7月の総選挙で、党史上最大の最大の敗北を喫し、野党となった。その後、リシ・スーナク党首の後継者を決めるための党首選が行われていた。決選投票には、ベイドノック氏とロバート・ジェンリック氏(42)が残ったが、得票率56.5%のベイドノック氏が1万2418票差で勝利した。 ベイドノック氏は勝利演説で、「私が愛する党、私に多くのものを与えてくれた保守党を率いる役割を担うのは、何より光栄なこと」だと話した。 また、先の選挙で保守党を見捨てた有権者を取り戻すと宣言。党の「刷新」を約束し、「仕事に取り掛かる時だ」と述べた。 保守党党首は、ここ9年近くで6回も交代している。ベイドノック氏は分裂した党を団結させ、サー・キア・スターマー率いる労働党政権に対抗する役割を担うことになる。 ベイドノック氏は党首選中に具体的な政策を提示せず、保守党員を「最初の原則」に戻すことに焦点を当ててきた。 そのため、同氏がどのような影の内閣を作り、新しい保守党を形成するのかが注目されている。 同氏はジェンリック氏をはじめ、党首選に立候補した全保守党議員に役職を打診するとしているが、党首選3位だったジェイムズ・クレヴァリー氏はすでに影の内閣入りを否定している。 ベイドノック氏は6日までに影の内閣を発表した後、毎週水曜に行われる首相質疑に同日、保守党党首として初めて臨むとみられている。 この日には、労働党政権が先週発表した秋季予算案をめぐる投票も行われる。 この予算案に先立ち、ベイドノック氏は27日付の英紙サンデー・テレグラフに寄稿し、レイチェル・リーヴス財務相の計画を批判。「リーヴス氏は何十億ポンドもの資金を空中から作り出し、インフラ投資に充てようとしている」と述べた。 また、党首選勝利後にも、「労働党は失敗するだろう。保守党がおかした多くの過ちを繰り返し、この破綻したシステムにさらに資金を投入しようとしているからだ」と批判した。 一方のリーヴス財務大臣は、英政治紙オブザーバーに対し、「ベイドノック氏がこの予算案に反対するつもりなら、待機児童の削減のための投資、教師の採用への投資、重要なインフラの構築への投資に反対するつもりなのか、国民に説明しなければならない。労働党はすでに選択した。今度は保守党が選択すべきだ」と述べた。 ■保守党の価値観が「危機的状況にある」と ベイドノック氏は、尊敬する政治家だというマーガレット・サッチャー元首相と同じように、党内でも支持と批判のある存在だと言われる。 しかしその確固とした意見、人種的偏見や差別問題を意識する「ウォーク」カルチャーに反対する立場、そして実直なスタイルから、保守右派や草の根派の人気を獲得。同じく右派のジェンリック氏に勝利するに至った。 総選挙で保守党が敗北した理由についてベイドノック氏は、「右派的な発言をしながら、左派的な政策を実行していた」からだと指摘。政権を奪還するには「労働党のような行動を止める」必要があると述べている。 オルケミ・オルフント・アデゴケ・ベイドノック氏は1980年、ナイジェリア出身の両親の間に生まれた。父親は一般開業医、母親はラゴス大学の生理学教授だった。幼少期をナイジェリアのラゴスと、母親が教えていたアメリカで過ごし、16歳でイギリスに戻った。 サセックス大学でコンピューター工学の学位を取得後、IT業界で働きながら法学位も取得。その後、金融業界に転身し、クーツ銀行でアソシエイトディレクターを務めた。さらに保守党支持の有力誌「ザ・スペクテイター」のデジタルディレクターとして、編集とは無関係の業務に従事した。 保守党の上院議員アシュクロフト卿の自伝によると、ベイドノック氏はサセックス大学在学中に、左派的なキャンパス文化に反対の方向で「過激化」し、右派の政治思想に目覚めたという。同氏は後に、学生活動家たちを「甘やかされて、特権意識に満ちた、特権階級の都会のエリート予備軍」と表現している。 2005年に25歳で保守党に入党。2015年にロンドン議会議員となり、2017年にサフロン・ウォルデンから下院議員に当選した。2016年の国民投票では欧州連合(EU)離脱を支持した。 議員となってからは政務官などを歴任。また、閣僚経験者のマイケル・ゴーヴ元議員の支持を得て、2022年の党首選にも立候補した。 リズ・トラス政権とリシ・スーナク政権では、国際貿易相、女性・平等担相などを務めた。 ベイドノック氏の議員としての活動は、その率直な物言いと、異論の多い問題に積極的にかかわっていく姿勢が特徴だ。 ボリス・ジョンソン政権下で政務官を務めた際には、イギリスに広範な制度上の人種差別が存在するという考えに異議を唱え、左派を激怒させた。 LBCのインタビューでは、自分が偏見を受けたのは左派の人々からだけだと語っていた。 また、自らをジェンダーに批判的なフェミニストと称し、トランスジェンダーの人々の自認を認める動きに公然と反対している。女性・平等担当相時代には、スコットランドの性別変更手続き簡易化法案を阻止するイギリス政府の先頭に立った。 党首選中には、保守党の価値観が「危機的状況にある」と語っていた。人種、宗教、性別といった特定のアイデンティティーに基づく政治や、国家による絶え間ない介入、そして「官僚が選出された政治家よりも優れた決定を下すことができるという考え」などの、新しい「進歩的イデオロギー」から攻撃を受けていると主張していた。 また、保守党は本来の価値観に立ち返り、こうした現実を認識した新たな政策を打ち出す必要があると付け加えた。 ベイドノック氏はしばしば「文化戦士」と称されるが、自身はそのレッテルを否定している。 時には「誰もいない部屋で争いを始めたいのか」と非難されることもあるが、同氏は、争いは望んではいないが、保守党の原則を守るためなら戦う覚悟はあると話している。 こうした姿勢が保守党議員らに親近感を与える一方で、一部の議員たちを不安にさせている。 こうした議員らはBBCの取材に対し、党首選でベイドノック氏を支持すると語ったものの、閣僚時代の同氏の険悪なやりとりに嫌気がさしていたと話した。 だが、ベイドノック氏の支持者は、新党首のこの部分を重視している。同氏は他の閣僚とは異なり、自分が信じることを下院議員たちに率直に伝え、その主張を堂々と展開していたという。 (英語記事 Badenoch promises change after historic Tory leadership win/ Kemi Badenoch: Who is new Tory leader and what does she stand for? )
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