【いかあたま定食】それってなに? と思って食べてみたら、急に好物の上位に食い込んでしまった初耳の定食:パリッコ『今週のハマりメシ』第135回
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。 【写真】定食屋といえば目玉焼き それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。 そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。 * * * 護国寺にある出版社へ仕事の打ち合わせに行った。それが終わったのが午後3時半ほど。この日は朝からかなりバタバタと予定が重なっていて、起きてからまだ食事をしていない。どこかないか? 近場にぐっとくる店は。そう考えながらひとまず音羽通りを歩きだすと、1分もしないうち、前方に年季の入った「定食」ののぼりを発見。 この通りは何度も歩いたことがあるけれど、あったっけ? 定食屋なんて。と思いながらその前まで行ってみる。するとそこには、「熊ぼっこ」という小さな町中華店があったのだった。 ビルのエントランスの片隅に、まるで身を隠すようにあるカウンターだけの細長い店。なんてかわいいんだろう。今までこんな店を見逃していたなんて! 当然、入る。 まずはアルコールメニューがあるかどうかを確認し、なにはなくともビールが飲みたい。「瓶ビール(中)」(550円)を注文。 トクトクと瓶からグラスに注いだよく冷えたビールをごくり。今日は朝からずっと仕事に追われていたから、この優雅な時間はなによりのごほうびだ。 そしてあらためてメニューを見てみると、これがとても興味深い。 表の看板にあったとおり「ラーメンの部」と「定食の部」が二本柱。「しょうゆラーメン」の500円をはじめ、全体的に立地からは考えられないほどにリーズナブルだ。 しかし僕がさらに興味を惹かれたのは、続く「一品料理」と「当店特製メニュー」の部。いいつまみになりそうなメニューがずらりと並ぶ一品料理が、これまたどれも安い。「やっこ」と「半やっこ」がどちらも100円というのがツボだ。 さらに特製メニュー。先頭の「かつあたま定食」は、いわゆるカツ煮定食だと想像されるが、「いかあたま定食」「えびあたま定食」はなんだろう? かつと「コロッケあたま定食」に挟まれているから、やっぱり揚げて玉子とじにしたようなものなのかな。しかし大穴で、いかの頭、つまり"えんぺら"がおかずのメインの定食ということだってなくはない。それはだいぶおもしろいぞ。そもそも近年の僕はいかに目がない。よし、いかあたまに決めた! さらに、それを待つ間のおつまみとして「目玉焼き」(200円)もお願いします。 カウンター内の厨房には、熟練の雰囲気漂う男性料理人がふたり。背格好やメガネをしているところまでよく似ているが、兄弟か他人のそら似か。ともあれ、ちょうど客が僕ひとりで需要より供給のほうがまさっており、驚くほどのスピードでやってきた目玉焼きは、これが目玉焼きでなかったらなにが目玉焼きなんだ? ってくらいの正統派。玉子が2個で黄身はやや硬め寄りの半熟。割ってたっぷり醤油をかけてかぶりつき、そのまろやかさ、香ばしさをつまみにビールをぐびり。
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