中国の「カリスマ開発者」が語る日本AI戦略の死角と新興企業が迎える大チャンス
■AI開発企業は中国人だらけ 郭氏の知っているだけでもバイトダンスのAIラボで働いていた元同僚3人が東京大学でAI研究に従事している。そして、AI開発の雄、Open AI社にも多くの中国人エンジニアが勤めていると話す。 「OpenAIやApple、Metaが発表した最新のAIに関する論文の筆者や貢献者には多くの中国人やアメリカ在住の華人が含まれています」と郭氏。実際に論文を検索すると、中国人らしき名前は、日本人とは比べ物にならないほど頻出している。中でも、トップランナーであるOpenAIに勤めるエンジニアについては「半分から3分の2ほどが中国人ではないか」と郭氏は推測する。
そもそもなぜAIの世界に中国人エンジニアが多いのか。郭氏は「過去10年で北京の多くの大学が多くのAI人材を輩出し、それらの人々は企業で高密度に訓練され、複雑な問題をどうエンジニアリングするかを学びました。コロナ禍以降、その多くは中国を離れてアメリカで働くことを選んだからだと思います」と語る。 一方で、新天地を目指す中国人にとっては、アメリカでのビザ取得が難しくなっている。そうした背景のもと、ビザの取得しやすい日本が移住先として存在感を高めているというわけだ。
しかし、こうした人材は日本に来ることはあっても日本企業は選ばず、グーグルなどの外資に就職するのが一般的なのだという。日本企業が流暢な日本語を事実上の応募要件としているためだ。 日本では中国人エンジニアを排除しようとする動きが一部であるのも事実だ。2019年には大澤昇平・東京大学大学院特任准教授(当時)が、自身が経営するAI関連会社について「弊社Daisyでは中国人は採用しません」「そもそも中国人って時点で面接に呼びません。書類で落とします」などツイッター(当時、現在はX)上で投稿し炎上。その後、東大に懲戒解雇される事態に発展した。
悪条件は日本語の壁、中国への警戒感にとどまらない。郭氏は「日本企業はエンジニアの給与水準が低すぎる」と指摘する。前職のバイトダンスでは5、6年前の時点で、iOSアプリを開発するような上級エンジニアの基本給は約2500万円だったという。これとは別にストックオプションがつくのが一般的なので、日本企業との差はさらに大きくなる。 日本では、高度人材獲得へ向けた受け入れ体制の整備はまだ緒に就いたばかりだ。そういった意味では、日本でAI業界を盛り上げるためには、短期的にはより多くの日本人エンジニアを育成する方が近道かもしれないと郭氏は話す。東大や東京工業大、東北大といった教育機関の水準は十分に高いためだ。