「唯一無二のアイデア」でも失敗する…プロジェクトを失敗させないために必要な考え方
大小かかわらず、官民問わず、ほとんどのプロジェクトが当初の予算や期限をオーバーしてしまい、期待する成果も挙げられない。 【写真】「仕事速いね!」と言われる人が意識している、たった3つのコツ プロジェクトの関係者に「唯一無二の取り組みだから成功できる」という考えがあるとしたら要注意。 世界中のプロジェクトの「成否データ」を1万件以上蓄積・研究するオックスフォード大学教授が、予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結びつける戦略と戦術を解き明かした『BIG THINGSどデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか? 』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
まったく異なる2つの見方
2003年のこと、私はイギリス政府から1本の電話を受けた。当時財務大臣として国家予算を管理する立場にあり、のちにイギリス首相になったゴードン・ブラウンが、国家の大規模プロジェクトで問題を抱えていた。 こうしたプロジェクトは、コストと工期の見積もりを大幅に超過するのがつねで、政府は予測に自信を持てなくなっていた。また大規模プロジェクトは国家予算に占める割合も大きいため、政府は予算そのものにも自信を持てなくなっていた。問題を診断するのはそう難しくなかった──さまざまな認知バイアスに戦略的虚偽表明が組み合わさったときに起こりがちな問題だった。しかし解決策を見つけるのは、一筋縄ではいかなかった。 そんな折、私はダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの1979年の論文──カーネマンに2002年のノーベル経済学賞をもたらした、有名な「プロスペクト理論」の論文ではなく、多作の2人が同年に発表した別の論文──で提唱された、見慣れない用語に目をとめた。「参照クラス」だ。 参照クラスとは何だろう? これを理解するために、プロジェクトに関してまったく異なる2つの見方があると考えてほしい。 1つめは、そのプロジェクトがほかにない特別な取り組みだという見方。どんなプロジェクトにも、程度こそ違うが、特別なところがある。たとえピクサー映画や火星探検、パンデミック撲滅ほど革新的でなくても、ありきたりな住宅の改築や、普通の橋の建設、ソフトウェア開発、会議の開催のようなプロジェクトにも、ほかとは違う点があるものだ。 それはプロジェクトを行う主体かもしれないし、その手法かもしれない。立地や経済情勢かもしれないし、こうした要因の組み合わせかもしれない。とにかく、どんなプロジェクトにも、ほかとは違う点が何かしらある。