新記録の秘話 星野がマー君を説教した日
配球とリズム
この日も、課題のひとつである立ち上がりに一死三塁のピンチを迎えた。だが、内川に対して、スプリットを多投しておき、ウイニングショットに使ったスプリットをファウルにされるが、根負けすることなく、最後は149キロのストレートをインサイドへ。好打者、内川が、たまらずスイングアウトである。 七回にも二死三塁のピンチを背負ったが、ラヘアに対してインサイドに厳しいボールを見せておいて、2球目にフォークでストライクを稼ぎ、最後、外に投げ込んだストレートは154キロを示した。外国人選手は、ここまでの内外の配球と緩急をつけられると手も足も出ないだろう。 残り11、12試合を投げると推測すれば、星野監督が予告した20勝投手は見えてきた。もし20勝を成し遂げれば、パでは2003年の斎藤和巳(当時ダイエーホークス)に並ぶ(セでは同年の井川慶=当時阪神)。21勝に届けば2008年の岩隈(当時楽天、現マリナーズ)、1985年の佐藤義ピッチングコーチに並ぶ快挙となる。その佐藤義コーチは、そういう実体験を踏まえた上で、“説教をした日”に「オレもおまえのボールがあれば、今でも20勝してみせる」、と笑っていたという。 そういう経緯を知る私は、なんとく嬉しくなって星野監督に連絡を取ってみた。 「言った通りでしょう。配球とリズム。考えて投げるようになった。でもまだまだよくなりますよ。それとね。彼は性格がいい。威張ったようなところがないから、みんなに好かれる。彼が投げると打線が打つでしょう。逆転劇や、連勝が打線に救われた場面も何度かありました。不敗神話とか言われているけれど、そういう信頼感も無関係じゃない」 長らく広島番記者を務めていた私は、山本浩二が入団する頃の縁で、東京6大学の3羽トリオとして星野監督が、明大からドラフトされた大昔から旧知の仲である。楽天監督に就任以来、この2年間の苦労を見聞きしているだけに、ついつい取材にも熱が入る。 ――マー君の記録の勢いで、このまま優勝へ突っ走れますかな? そう聞くと、「何言ってんの? 野球界は何が起こるかわからん。まだまだ試合数は残っている。毎日、必死だよ」と、逆に叱られた。 (文責・駒沢悟/スポーツライター=元スポーツ報知広島番記者)