【コラム】苦難の時期も取り組んだ肉体改造。結実した木村誠二の恩返し|AFC U23アジアカップ
勝てばグループステージ突破が決まるという状況下で行われたU-23UAE代表戦。勝利のために得点が求められた試合で、先制点を叩き出したのは、今季、悔しい日々を送ってきた木村誠二だった。 その場面は27分に訪れる。左サイドのCKがファーに流れると、そこでボールを拾った山本理仁が中央にインスイングでクロスを入れた。 「理仁が持ったときにインスイングでここら辺に上がってくるだろうなっていうポジションを少し予測した。本当にそこにいいボールが来てくれたので、僕は触るだけでした」 中央でポジションを取り直した木村は、相手より頭一つ高くジャンプし、ヘディングをうまくゴールに流し込んだ。パリ世代の代表活動が始まって以来、木村にとって初のゴール。喜びはひとしおだ。 「点を取ったときは『やったー』みたいな。喜び方もわからなくて、本当に万歳してるだけ。パフォーマンスも特に考えてもいないですし、タイシ(野澤大志ブランドン)にも『慣れてないのか知らないけど、可愛いかったっすよ』って言われました(笑)。もうちょっとポーズを考えておけばよかったなと思います」
木村にとって2024年は苦難の時期が続いた。昨季、1シーズンを通してFC東京でなかなか出場機会を得ることができなかった木村は、今季からサガン鳥栖への期限付き移籍を選択。新天地で新たなスタートを切ろうとしていた。 しかし、開幕前のキャンプ2日目に左のハムストリングを負傷。さあこれからというタイミングでの離脱は、メンタル的にも難しい日々だったことは容易に想像できる。 特にパリ五輪を目指す大岩剛監督のチームが2022年3月に発足して以降、アジア競技大会を除くすべての活動に参加していた木村だったが、今回のAFC U23アジアカップを前に行われた3月の国内合宿は復帰した直後とあって落選。外からチームを見ることでいろいろな発見はできたが、より一層悔しさも募った。 「今シーズンは(鈴木)海音もジュビロ(磐田)で最近は試合にずっと出ていて、(高井)幸大も、(西尾)隆矢も試合に出ていた。その中で、僕だけ怪我でずっと出ることができない状態で、本当に悔しい思いをしていましたし、リハビリ期間中もずっと復帰した後にチームにどう関わっていくか、どうやって結果を出すかを常に考えていました。だからこそ、リハビリ期間中には今まで出来なかった筋トレで少し体をでかくするとか、そういう取り組みができたところもあります。マイナスなことだけではないですけど、本当に悔しい思いは強かった」 メンバー発表の日まで、今大会に自分が選出されるかも疑心暗鬼だった。それでも、大岩監督はこれまでの信頼を示すかのように木村をメンバーに加えた。再び日本を背負う場所へ。木村の思いは決まっていた。 「僕自身が選ばれる可能性は本当に低いと思っていました。その中でこうやって選んでいただいてすごく感謝していますし、感謝するだけではなくて、しっかり結果で恩を返したいなという思いもあった。この大会は優勝やパリオリンピックの切符などをチーム全員で目標設定している部分はありますけど、僕自身で言えば、結果でやはり感謝を表したいなと思っていました。(だから)今日こうやって1点を取って結果を出したというのはすごく嬉しく思っています」 もちろん、結果を残したことだけに満足する木村ではない。相手のCFとのマッチアップではうまく対処できなかった部分もあり、「僕個人のところでもっと勝てなければ駄目」と自身の課題にもしっかりと目を向けている。今後、相手のロングボールが増える可能性を考えても、そこのポイントは次に向けて修正していく必要があるだろう。 「チーム全員でゴールを守るという意識は本当にこの大岩ジャパンが始まってからずっと意識付けされている部分で、それが本当にゲームに現れただけだと思う。これをそのまま続けてやっていけたらもっと硬い守備ができるんじゃないかなと思います」とは木村の言葉。西尾が3試合出場停止となったことで、最終ラインの選手にかかる責任はより重くなるだろう。 それでも、リハビリ期間中に肉体改造に挑み、上半身をパワーアップさせた男は、誰よりも試合に出る喜びを知っている。だからこそ、1試合でも多くピッチに立って力を発揮したいと考えているのだ。 チームのために、そして自身のためにーー。最終ラインを引き締めることで、木村はチームを勝利に導いていく。 文・林 遼平 1987年生まれ、埼玉県出身。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。