【レポート】川崎皇輝主演ミュージカル『町田くんの世界』 心が解きほぐされる、極上のヒーリング体験
3月29日(金)、皆を愛し、皆に愛される主人公・町田くんの物語がミュージカルとして幕を開けた。日々を生きるなかでの痛みや苦しさも優しく包み込んでくれる、そんな町田くんの世界は、限りなく愛おしい。人の心の温かさに癒される、素敵な作品のゲネプロの模様をお届けしよう。 【全ての画像】ミュージカル『町田くんの世界』舞台写真(全10枚)
温かく、きらめきに満ちた町田くんの世界を描き出すステージ
舞台の中央には、回転するジャングルジムのようなセット。ここが時には町田家であり、時には高校の教室であり、時には街中の交差点や電車の中、お店の中であったりと、さまざまに姿を変える。両サイドでは音楽・作詞担当の和田俊輔らによってキラキラしたサウンドが奏でられている。その内側には椅子が並び、出番を待つキャストが腰かけている姿も印象的だ。 幕開けに描かれるのは、ある春の日の朝、川﨑皇輝(少年忍者)演じる町田一(まちだ・はじめ)くんが目覚める場面。弟妹4人と母(湖月わたる)、仕事の都合であまり家にはいない父、という家庭の長男である町田くん。回り続けるセットと共に表現される高校への登校の過程で、彼が誰に対しても優しく、また彼に優しくされた人はみんな彼のことが大好きであることが描かれる。プロローグの「Colors of Our Hearts」1曲で巧みに作品の世界観と町田くんの紹介を行い、また一気に観客を惹き込むことができるのは、ミュージカルだからこそ。 季節が春から夏、秋、冬へと移り変わるなかで、町田くんはさまざまな人たちと関わっていく。氷室くん(神里優希)・栄さん(斎藤瑠希)らクラスメートと過ごしつつ、さくら(礒部花凜)の恋を応援したり、ひかり(浜崎香帆)とその父・健一(吉野圭吾)の仲を取り持ったり、婚活がうまくいかなかった英子先生(大月さゆ)を励ましたり、仕事も人間関係もうまくいかなかった吉高(岩橋大)が自分を振り返る契機をつくったり、弟が生まれて家族がひとり増えたりと、周りの人を自分の家族のように大切にすることで彼らも、そして自分自身をもよい方向に進んでいく。その姿には、観客も自然と心が温かくなるだろう。 そして何より町田くんにとって大きかったことは、「人間嫌い」と噂されていた猪原さん(長澤樹)との出会い。家庭環境と過去のいじめのせいで、人と距離をおき孤独にひざを抱えていた彼女の心を、町田くんは優しく解きほぐしていく。それは、猪原さんにとって世界の色が変わるような出来事であり、いつしか町田くんへの恋心が芽生えることになる。同時に町田くんにとっても猪原さんは、西野くん(鶴岡政希)の彼女への恋心にふれることなどを通して、これまでのように皆に等しく優しさを向けていた時とは違う、たったひとりの“特別な存在” となっていく。 そうしたふたりの心の変化が季節の移り変わりのなかで驚くほど自然に、観客に届く。これは原作である安藤ゆき『町田くんの世界』(集英社マーガレットコミックスDIGITAL刊)の魅力を、巧みに舞台として現出してみせた脚本・作詞のピンク地底人3号、作曲・作詞の和田、さらには美術(池宮城直美)や照明(原口敏也)、そしてそれらをまとめあげた演出のウォーリー木下、彼らクリエイティブチームの確かな仕事によるものだ。ステージ全体に広がる優しく温かな“町田くんの世界”は、観客にとっても心が解きほぐされる、極上のヒーリング体験と言えるだろう。