東大→MBA→産業僧「起業家精神に近い」 異色の経歴で説く働き方 「短期思考」な現代のブレークスルー
ビジネスの悩みを仏教の視点から考えようという僧侶がいます。浄土真宗本願寺派の僧侶、松本紹圭さん(44)(@shoukeim)。東京・光明寺を拠点にしつつ、所属にとらわれないフリーランスのような働き方をし、産業医ならぬ「産業僧」としてさまざまな企業に出向き、働き手と対話を重ねています。(デジタル企画報道部・藤えりか) 【画像】「ぴえんもご縁」…ユーモアお寺の掲示板
「就職も進学もしっくりこなかった」
東京大学で哲学を学んで卒業後に僧侶となり、インド商科大学院で経営学修士(MBA)を取得、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズにも選出……と、異色の経歴をたどる松本さん。 祖父は住職をしていたそうですが、いわゆる「実家がお寺」というわけではありません。そんな松本さんが、そもそもなぜ、大卒後に僧侶になったのでしょう。尋ねると、こんな答えが返ってきました。 「就職も進学も、しっくりこなかったんですよね。なんで就職か進学かしかないんだっけ、と。人材マーケットに自分を乗せて、給料ではかられることもピンときませんでした。『開けたことのない扉』を開けてみたいという起業家精神に近いものもあったかもしれません」 起業家精神で、僧侶。確かに松本さんは、僧侶向けのお寺の経営塾「未来の住職塾」を立ち上げて塾長を務め、自身で起業した会社の代表もしています。MBA僧侶ならでは、です。
産業医のお坊さん版、二つの役割
ビジネスと仏教は、一見関係ないようにも感じられて、「?」となる人もいるかもしれません。でも、仏教の観点から働く人や経営者の人間としての悩みに寄り添うと考えれば、ピンとくる人もいるかも。MBAには、経営者や雇われる側が組織内でいかに手を携えるかという人間的な学びも含まれます。 だからこそ松本さんは、「産業僧」として各地の企業を行脚し、働き手と対話を重ねています。「産業僧」というお仕事、少なくとも筆者は聞いたことがありません。 「産業僧」って、どんなことをするのでしょう? 松本さんに聞くと、こんな説明が返ってきました。 「企業には産業医がいますよね。そのお坊さん版です。役割は大きく二つあって、一つは長期的な視点や考え方を持つリーダーを育てるための研修。もう一つは、社員のメンタルヘルスを支えるためのケアです」 企業に出向いた松本さんは、例えばこんな質問をするそうです。 「人生には無数に選択肢があります。同時に、人生の時間は有限で、老病死からは誰も逃れられません。その中で、あなたはなぜ今、ここで働いているのでしょうか」 これは、どきっとします。そろそろ転職・転身を考えた方がいいのでは、という気にもさせられます。 でも松本さん曰く、「会社を辞めた方がいいという話ではありません。人によってはつらい質問かもしれません。でも、『こうしなければいけない』という枠組みにはまり込みすぎて窒息しかけている人が多いので、枠組みの外から自分を見つめる視点を持ってもらえるよう、そのきっかけ作りをしています」 「他にもたくさん選択肢がある中でなお、やっぱり自分はこの会社に今日も行くんだと引き受け直せるかどうかで、全然違うと思うんですよね」 働くひとりとして、膝を連打してしまいます。