<インド>長すぎた年月 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
インド北部、パキスタンとの国境で分断されたカシミール地方では長年、独立・自治を求めてインド政府を相手にした武力闘争が続いてきた。いまだ終わることのないその闘争が、もっとも激しかったのが90年代。インド政府軍によって、多くの若者たちが逮捕・拘束され、拷問さえもうけた。インド兵に連行されたまま消息不明になった者の数は推定8千から1万人。インド政府はこの件について口をつぐんだままだ。 そんな、行方のわからなくなった息子を持つ母親たちを訪れた。彼女たちにとって、愛する息子たちの記憶は、写真のなかの姿とともに止まったままだ。 「いつか帰ってくることを祈ってます…。」 淡々とした調子で、母親の一人パルビンはそう言ったが、その声にはあまり力が感じられなかった。インド兵に捕まったとき、息子のジャビッドは16歳。それからすでに20年以上が経ってしまった。希望を持ち続けるには、それはあまりに長すぎた月日なのかもしれない。 (2009年12月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.