映画『室井慎次 敗れざる者』を観て、“青島”を思い出したワケ。旧作ファンが歓喜した仕掛けの数々とは? 考察&評価レビュー
貴仁の性格が思い起こさせる“あの人”
もうひとつの見どころは、往年の『踊る大捜査線』のファンに向けて。 これは今までのシリーズを見続けてきたファンにとって、答え合わせをしていくようなもの。起こる事件の随所に「あ…あの時の」と、ブラウン管のテレビで見たシーンなどが去来してくる。鑑賞中、海馬はフル回転だ。 例えば前述の履歴書。普通なら履歴書だけとすっ飛ばすが、ファンなら違う。連続ドラマで和久さん(いかりや長介)の殉職した後輩が、“たった3行”で警察官人生を終えたことを思い出してほしい。 劇中、杏がオムライスを家族のために用意する。オムライスといえば、あの女性。 室井が食べていたカップ麺はキムチ味…といえば、すみれさん。 とにかく作品からの匂わせは全力で嗅ぎにいく。それによって楽しさが増す。私が一番気になって、これから観る人にも確かめてほしいのが、貴仁の性格。どこか青島に似た熱さを漂わせていたのだ。高校3年生、将来はどんな職業を選ぶのだろうか。 本作、『室井慎次 敗れざる者』は、あくまでも序章だった。にも関わらず、足を運んだ休日の映画館は見事に満席だった。客席に座った全員が『踊る大捜査線』に魅せられた面々だと思うと、勝手にオフ会のようで上映前はワクワクした。それだけ作品には注目度が集まっている。続く『室井慎次 生き続ける者』(11月15日(金)公開)が待ち 遠しい。 【著者プロフィール:小林久乃】 出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。
小林久乃