IT大手幹部は自分の子にはデジタル教育を受けさせない? 国際ジャーナリスト・堤未果氏が幼児教育でのプログラミング教育を危ぶむ
世界中で事業を展開する巨大IT企業群。「利便性」「効率性」を唱えて教育業界にも参入してきた。国際ジャーナリスト・堤未果氏は、学びのデジタル化が子どもたちに及ぼしうる、負の影響について指摘する。便利さの追求の果てに、未来を担う世代から奪われかねないものとは何か。神戸郁人氏の著『うさんくさい「啓発」の言葉』(朝日新書)から一部を抜粋して堤氏の考察を解説する。 【写真】ええ!? 10歳で起業? ■ 幼児教育でプログラミングが人気? 近年、急速なIT技術の普及により、幅広い領域で進むデジタル化について考えたことがあります。特に教育分野では、小学校においてプログラミングが必修化されるなど幼い頃から関連スキルを養成する機会が着実に増えています。 先日、幼稚園・保育園に通う幼児向けに、プログラミングの概念に関して、おもちゃで学べるサービスを提供している企業の関係者とやりとりする機会がありました。 「おもちゃを活かした事業の経験は、これまでになかったんです。小学校入学前に、我が子にサービスを受けさせたい。そう考える親御さんからの問い合わせが止まりません」 一昔前なら考えられない事態だと、担当者も驚いているようでした。デジタル化のネガティブな側面について、国際ジャーナリストの堤未果さんは、「技術には必ず、光と影の両面がある」と語ります。 ■ 「自分の頭で考えないといけない」 タブレット端末などで使う学習用アプリや、インターネットの検索機能は、ある問いへの最適解を即座に導き出してくれるものです。その一方で、集中力の欠如や思考の単純化といった、負の副産物をもたらしうることも意識する必要があるのだと、堤さんは述べます。
「教育というのは、様々な要素が子どもたちに影響する分野です。だからこそ利便性だけで突き進まず、テクノロジーが学習にどう作用しているのか、大人が総合的に検証しながら進めてゆくことが不可欠でしょう」 デジタル技術に頼り過ぎてしまうと、物事を深く掘り下げて捉える習慣が損なわれてしまうのではないか―。堤さんは、そんな懸念も口にしました。 「(タブレットが)ないと自分で全部頭で考えないといけない。(タブレットが)あると問題を間違ったりすると説明があって少しずつ進められる」 これはICT機器の学校への配備を促す文部科学省の公式動画で、ある少女が語った言葉です。堤さんは「動画を観た時、デジタル教育が、ものを考える姿勢を二極化させることを示す、なんて象徴的なコメントだろうと、愕然としました」と言います。 「なぜなら、デジタル化の弊害を理解している世界的IT大手GAFAM幹部の大半は、自らの子どもを、昔ながらの授業を行う〝デジタルフリー〞の学校に通わせているからです」 「勉強の効率化」を合言葉として、ICT機器は流通し続けています。最新技術が教育業界を一大市場に変え、現場に深く根を張る。その結果、各種サービスを運用する企業群の権力を、必然的に肥大化させる事態にもなっているのです。 ■ プラットフォーム企業との不均衡な関係 一方で、ネット上の検索エンジンを巡っても、サービスの提供者側と利用者側との間に不均衡な関係が築かれてきました。 検索結果の表示順は、グーグルなどプラットフォーム企業のアルゴリズム(計算手段)に左右されます。更に、SEO(検索エンジン最適化)対策を講じる情報発信元企業の取り組みにより、上位に配置されるサイトの顔ぶれも変動するのです。 アルゴリズムの詳細は、公開されないのが一般的です。そのため、プラットフォーム企業の意向が強く働きやすいと言えます。信憑性が疑わしい反面、人目を引く記述を多く含み、検索に引っかかりやすいサイトが目立ってしまう……。