ブーム到来の「時代劇」若い世代にとっては「異世界もの」?ーー気鋭クリエイター参戦で注目作続く
それは先に挙げた、今後公開が予定されている実写映画の「時代劇」作品についても言えるだろう。役所広司演じる滝沢馬琴と内野聖陽演じる葛飾北斎の交流を描いた映画『八犬伝』の原作は、滝沢馬琴ではなく、その「創作」と「生涯」を、虚実を行き来しながら一大エンターテインメントとして描いた作家・山田風太郎の小説であり、それを監督するのは『ピンポン』(2002年)などVFX表現に長けたことで知られる曽利文彦なのだ。そして、『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる脚本家・笠原和夫が遺したプロットを原案とする、山田孝之、仲野太賀、尾上右近らが出演する映画『十一人の賊軍』を監督するのは、『凶悪』(2013年)、『孤狼の血』(2018年)、さらには自身が総監督を務めたNetflixのドラマシリーズ『極悪女王』(2024年)が現在話題を集めている白石和彌(彼は、今年公開された草彅剛主演の映画『碁盤斬り』(2024年)で初めて「時代劇」に挑んだ)。ちなみに『十一人の賊軍』の小説版は、2010年に本屋大賞に輝いた『天地明察』以降、時代小説も手掛けるようになった作家・冲方丁が書き下ろしている。 そして、大泉洋が主演する映画『室町無頼』の原作は、昨年『極楽征夷大将軍』で直木賞を受賞した作家・垣根涼介の小説であり、それを監督するのは『SR サイタマノラッパー』(2009年)でデビューして以降、『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017年)、『あんのこと』(2024年)など、さまざまなジャンルの作品に挑んできた入江悠なのだ。そこには間違いなく、本来「時代劇」作家ではない彼らの「意気込み」と、確かな「野心」が感じられるのだ。 果たして、彼/彼女たち(そこに「役者たち」も含めていいだろう)は、京都の撮影所を中心に綿々と培ってきた高い「技術」を有する「時代劇」というフォーマットの中に、どんな「新しさ」と「可能性」を見出しているのだろうか。とりわけ、今後公開が予定されている上記の実写映画については、その点に注目して観ることにしたい。それこそが、興行的な面も含めて、今後の「時代劇」の方向性を指し示す、新たな「道標」となるような気がするから。 ◼️主演・岡田准一×監督・藤井道人が手がけるNetflix『イクサガミ』 に期待大 となると、やはり期待せずにはいられないのが、先ごろ主演兼アクションプランナーの岡田准一がクランクアップの報告していた、藤井道人監督、今村翔吾原作によるNetflixのドラマシリーズ『イクサガミ』なのだけど、こちらの配信開始時期は、今のところまだ発表されていない。映画『新聞記者』(2019年)が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いて以降、話題作を次々と世に放ってきた藤井道人監督(その最新作は、横浜流星主演の映画『正体』(11月29日公開)だ)と、直木賞作家であることはもとより、今、いちばん「アクティブな歴史小説家」といっても過言ではない今村翔吾がタッグを組んで送り出すドラマシリーズ『イクサガミ』。 今村曰く、山田風太郎的な活劇であることを意識しながら「世界に通用するエンターテインメント」作品として書き始めたという本作(その最新刊となる第3巻「人」が、11月15日に発売されることが先ごろ発表された)は、『SHOGUN 将軍』が海外で絶賛され、『侍タイムスリッパー』が国内で徐々に支持されつつある状況の中で、どんな「戦い」を挑んでいくのだろうか。いずれにせよ、「時代劇」の「復古」ではなく、新たなクリエイターたちによる「改新」。それが、今後の「時代劇」を語る上で、ひとつのキーワードになってくるのかもしれない。
麦倉正樹