人生もワインもこうして熟成していくんだな 『おかえりブルゴーニュへ』
フレッシュな新酒の季節がやってくる。爽やかなワインもいいけれど、熟成したワインはもっと味わい深い。人生もまた然り。ワイン好きにはうれしく、ヒューマンドラマ好きにはぜひ観てほしい映画『おかえりブルゴーニュへ』(11月17日公開)がある。 物語はフランス・ブルゴーニュにあるドメーヌ(※)の長男ジャン(ピオ・マルマイ)が10年ぶりに帰省するシーンから始まる。父親が末期の状態であることを知り、戻ってきたのだ。家業を受け継いだ妹ジュリエット(アナ・ジラルド)と別のドメーヌの婿養子となった弟ジェレミー(フランソワ・シビル)とが再会する喜びも束の間、父は世を去ってしまう。ブドウ畑や自宅の相続問題を巡り、さまざまな課題に直面する最中、ブドウは熟し、父が亡くなってから初めての収穫時期を迎えるが……。 『猫が行方不明』(1996)、『スパニッシュアパートメント』(2001)などを手掛けたセドリック・クラピッシュ監督の4年ぶりの新作となる。ビルが建ち並ぶ都会の喧騒を抜け出し、降り立ったのは見渡す限りの美しいブドウ畑。父親の影響で、10代の頃からブルゴーニュワインに親しんできたクラピッシュ監督は、2010年頃から「ワインに関する映画を作りたい」と思い続け、構想7年ようやく実現した。
ドキュメンタリーさながらのワイン製造工程の中で、紡がれる3人の物語
丸1年かけて、じっくりと映し出される四季折々の姿を見せるブドウ畑での栽培から収穫、醸造、熟成までの工程を丁寧に描いている。刻々と変化する畑の様子や最適なタイミングを逃せない作業など、実際のワインづくりを追っている場面は、一発勝負というドキュメンタリーさながらの緊張感を伝えている。その中で3人の共通の問題やそれぞれの物語が語られていく。それほど大きな事件が起こるわけではない。大人ならどこでも誰にでもあるような問題や感情が「おや、ここでもか」と語られる。 また、この映画がすごく気持ちいいと思うのは、3人がとても仲がいいところ。10年間ぶりの再会に最初はギクシャクした雰囲気もあったが、一人が落ち込んでいると、なんとか解決してあげたい、寄り添ってあげたいと思いやりあふれるすてきな関係なのだ。恋人どうしみたいな兄妹、おバカな妄想会話で笑いあう兄弟も面白い。遺産の相続を巡っては(現実も創作もとかくドロドロになりがちな問題)、3人が迷いながらも、ぶつかりながらも納得いく結論を導き出すというドラマティックな展開に仕上げるところは、さすがクラピッシュ監督のなせるワザと言える。 思わず「へぇ~」となるのが、細かいけれどワインづくりにはものすごく大切な工程の描写だ。果粒を採って熟し具合を確認し、収穫日を判断したり、除梗率(梗から果粒を離す作業)を何パーセントにするのかを決めたりするシーン。ここでの判断がワインの出来と特徴を左右する。父の時代からワインづくりを手伝う番頭の助言もスパイスとなっている。 穏やかな展開ばかりではない。収穫には人手が必要で、期間限定の労働者との間には言い争いもある。そして、彼らのブドウはバイオダイナミック農法(ビオディナミ)という自然有機農法でつくられいるのだが、隣接する畑は安価な大量生産で、体に良くない農薬もちゅうちょなく使っている。越境してくる“隣の敵”との対峙は緊迫した雰囲気が伝わってくる。