シリアに訪れる最悪シナリオ…過激派「イスラム国」復活ならトランプ米政権は介入へ、そしてプーチンはどう動くか
■ 最悪のリスクは「イスラム国」の再生 青山:シャーム解放機構が主導する反体制派そのものが、アルカイダやイスラム過激派の武装集団の「寄せ集め」で構成されています。そのほかにも、トルコの支援を受けるシリア国民軍、在地の武装集団などもいて、反対派の求心力が試されます。 最悪のリスクは過激派組織イスラム国(IS)がシリアで台頭することでしょう。シャーム解放機構が反体制派をまとめきれないと、指導力を持つイスラム国を旗印に、過激な在地の武装集団が集結する可能性があるのです。 現在はイスラム国に共鳴していた武装集団も、おそらくシャーム解放機構になびいている状態ですので、同機構がどこまで指導力を維持できるかに未来は左右されます。 トップであるジャウラニ指導者は別として、シャーム解放機構の主要メンバーはシリア政権の閣僚と違い、テクノクラートではなく「軍人あがり」「活動家あがり」という表現が適切で、洗練されているとは言えません。今後、西側、特にアメリカに認められるためにも、指導力を見せつける必要があるでしょう。 ──トランプ政権はシリアに対してどのような姿勢を示すと考えられますか。
■ トランプ・プーチンの今後の出方は? 青山:トランプ前政権の優先順位としては、イスラム国の打倒であり、イランの封じ込めでした。アサド政権のシリアの優先度は低かったのです。ところが、シャーム解放機構の影響力が低下し、イスラム国が息を吹き返すと、シリアに介入することは間違いありません。 また、今回のアサド政権崩壊劇のアメリカの動きはどこか不自然でもありました。アメリカが支援する反トルコのシリア民主軍に対するトルコの攻撃(シリア国民軍への支援含む)を「やめろ」と長年主張してきたのですが、アサド政権崩壊に際しては言葉が少な目です。 トルコのシリアへの攻撃を実質的に容認したのは、バイデン氏の意向なのか、トランプ新政権への忖度なのかは分かりません。もし忖度だとしたら、トランプ新政権はシリアへの介入を弱め、イスラエルとトルコにシリアを任せるということなのでしょう。 ──アサド政権を支援してきたロシアは、黙ってはいないのではないですか。 青山:ロシアとしてはアサド政権下のシリアは中東地域の数少ない同盟国であり、アサド政権を失ったことで痛手を受けているでしょう。地政学的にもロシアからすればシリアは中東・アフリカに睨みを効かせられる重要なエリアにあり、シリアの地中海沿岸の海軍基地、北西部の空軍基地にロシア軍が駐留しています。 プーチン大統領にとっての「レッドライン」はこの2つの基地であり、シャーム解放機構がこれに触れるようなことがあれば、黙ってはいないでしょう。もっとも、プーチン大統領は先手を打って、2つの基地を確保するような行動にあらかじめ出るかもしれません。 ロシアは権益を考えれば、アサド政権崩壊時にもっと強く出てもよいはずでした。2015年のシリア内戦時もアサド政権は同程度の危機を迎えましたが、プーチン大統領は積極的に支援し、シリアでの権益も確保しました。今回援助できなかったのは、ウクライナ戦争でそこまで手が回らなかったのでしょう。 現実的には、ロシアはシリア新政権に対して、トルコとの融和を求めていくのだと思います。 ──なぜでしょうか。