【2023年宮城の高校野球ベストシーン】雪辱を果たした一振りと完封劇で仙台育英が東北に勝利
2023年もあとわずか。ことしも高校球界ではさまざまな印象的な出来事があった。各都道府県ごとにベストシーンを思い出してみよう。 仙台育英と東北のスタメン 【選手権県大会準々決勝・仙台育英vs.東北】 たった一振りで勝負をつけた。23年夏、宮城大会準々決勝、1対0と仙台育英のリードで迎えた8回、仙台育英の背番号3、齋藤 敏哉内野手(3年)がガッツポーズを繰り返しながら、ダイヤモンドを1周した。力強く本塁ベースを踏んでベンチに向かうと、塁上にいて先にホームインしていた3選手と次々とタッチを交わした。勝負にけりをつける満塁弾。齋藤敏にとって会心の当たりは、ライバル東北を倒す大きな、大きな1発となった。 宮城の高校野球ファンの心に焼き付いた試合だった。県内の永遠のライバル、仙台育英と東北。前年の秋には、宮城大会決勝と東北大会決勝で対戦し1勝1敗だった。意地とプライドがぶつかり合う好ゲームが期待され、予想通りの展開だった。 初回に仙台育英が幸先よく1点を先制するが、その後は得点が動かない。東北先発の左腕・秋本 羚冴投手(3年)と、仙台育英先発の湯田 統真投手(3年)が好投を続けた。 仙台育英は追加点のチャンスをつぶしていた。2回はけん制アウト、スクイズ失敗で自滅していた。4回から東北はプロ注目右腕、ハッブス 大起投手(3年)をマウンドに送ると、仙台育英・尾形 樹人捕手(3年)のセンターへの大飛球も、フェンス手前で好捕された。 7回は両チームの二塁手が守備で魅せた。仙台育英・住石 孝雄内野手(3年)、東北・金子 和志内野手(3年)が、ともにセンターに抜けようかという当たりを好捕してアウトするファインプレーを競演。球場を熱くさせた。 そして8回を迎える。1対0。仙台育英がリードもほぼ互角の展開だった。そこに終止符を打ったのが、齋藤敏の一振りだった。この日は第1打席から2打席連続して空振りの三振に終わっていた。特徴のいわゆる「万振り」がマイナス面に働いていたが、第3打席では二塁手の好捕でアウトにはなったが、会心の当たりを見せていた。満塁弾は決して「まぐれ」ではなく、自信をもって振り抜いた打球でもあった。 先発した湯田は、中盤こそピンチを背負うも、5安打の完封勝利。12奪三振をマークし、東北打線を封じ込めた。 仙台育英は宮城大会決勝で東北に敗れたが、東北大会決勝でリベンジを果たしていた。しかし、齋藤敏と湯田は個人的に満足できていなかった。齋藤敏は3打数1安打も、ハッブスとの対戦では併殺に打ち取られていた。マウンドの湯田は先発するも、2失点し4回で降板した。チームは勝利したが、2人ともに「リベンジ」を誓って夏に臨んでいた。 その2人が、夏の大事な一戦で、東北相手に見事な働きを見せた。個々の強い気持ちが輪となってドラマを演じた。その後、仙台育英は宮城を制し、夏連覇を狙って甲子園へ乗り込むと、決勝の舞台まで勝ち進む。浦和学院(埼玉)聖光学院(福島)履正社(大阪)花巻東(岩手)神村学園(鹿児島)と、並みいる強豪を撃破した。決勝でこそ、スタンドを含めた慶應義塾の「全員野球」の前に屈したが、前年の優勝にひけを取らない強さを甲子園に残した。 2023年7月20日に石巻市民球場で繰り広げられた県内ライバルの戦いは、宮城県高校野球のレベルの高さを証明していた。この「熱い夏の日」は、両校の「伝統の一戦」の新たな1ページとして、深く刻まれることだろう。