ハワイのミサイル騒動 “ソ連から2200発” 冷戦時代にもあった誤報事例
かつて米政権中枢で共有された誤報事例
ミサイル発射が警報システムに組み込まれてから1か月半で発生してしまった「誤警報」騒動。前述のHEMSの説明によると、誤ったボタンを押したとされる職員は、コンピューター操作をしていた際に画面上のコマンドメニューに出てきた「ミサイル警報テスト」と「ミサイル警報」の2つを見間違え、誤って「ミサイル警報」を選択してしまった。HEMSは誤警報を防ぐ対策として、複数の職員の確認なしでは警報が送信できないようにする改善策を打ち出したが、これまではこうした確認なしでも発信できる状態だったことが露呈する形となった。米連邦通信委員会(FCC)のパイ委員長は14日、ハワイ州政府に対し、警報システムの誤発信に対する防止策が欠如していたことを批判し、早急な改善を要求している。 38分間続いた誤警報は多くの住民に不安を与えた。また、警報が住民に向けてサイレンからテキストメッセージまで様々な形で発信され、それらの情報がSNSで拡散されたこともあって、これまでにない騒動に発展してしまった。しかし「敵国からの攻撃」を知らせる警報が誤って作動したケースは、政権や軍の中枢レベルで共有された話で言えば、これまでに幾つかの実例が明らかになっている。 1960年10月、グリーンランドに設置されていたレーダーが、アメリカのコロラド州にある北米航空防衛軍司令部(現在のNORADの前身)にソ連から数十発のミサイルが発射されたと緊急の警報を発信したが、間もなくしてノルウェー周辺の「月の出」にレーダーが誤反応したことが原因だったと判明した。1980年6月には、ソ連がミサイルを発射したとペンタゴンのコンピューターが反応し、米軍や連邦航空局は瞬時に非常態勢に入ったが、こちらもコンピューター内部のチップが破損していたことが調査で判明し、ソ連との間で大きな問題に発展する前に難を逃れている。余談ではあるが、この時にカーター政権で大統領補佐官を務めていたズビグネフ・ブレジンスキー氏は、「2200発のミサイルがアメリカに向かって飛んでいる」という信じられない報告を(誤報として)受けたと後に語っている。 技術の向上もあり、冷戦時代に発生したようなレーダー探知や警報システムの誤作動が、現在も同じように起こるとは考えにくいが、現場の職員による人為的ミスでも大きな騒動を引き起こすことはハワイの例で証明されている。北朝鮮のミサイル実験が続く中、誤作動や誤発信をどのように防ぐのかという問題は、日本にとっても対岸の火事ではない。実際、16日にはNHKがサイト上やアプリに「北朝鮮ミサイル発射の模様 Jアラート 政府“建物の中や地下に避難を”」との速報を午後6時55分ごろ流したが、5分後に誤報であったと謝罪している。NHKによると、誤報は速報をネット上に配信する装置を誤って操作した際に発生したのだという。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト