『ブギウギ』スズ子と梅吉の別れに大きな衝撃 朝ドラが描いてきた“父の死”
朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)では、またもヒロイン・スズ子(趣里)に別れのときが訪れようとしている。父である花田梅吉(柳葉敏郎)が、重い病で伏せっているのだ。見るかぎり、回復に向かう見込みはなさそうである。 【写真】笑顔で歌を歌いきるスズ子(趣里) これまでにもスズ子は、母のツヤ(水川あさみ)、弟の六郎(黒崎煌代)、最愛の人である愛助(水上恒司)、愛助の母のトミ(小雪)らを失ってきた。振り返れば、彼女に多大な影響を与えた憧れの先輩・大和礼子(蒼井優)も早くに亡くなっている。その唐突な死はスズ子にだけでなく、私たち視聴者にも大きな衝撃を与えたものだ。 ここに記したのは私たちも知っているほんの一部の人間だけで、戦争を経験したスズ子はもっと多くの親愛なる者たちを失ってきたのだろう。そして今度は、父親なのである。 この梅吉とは、なかなかのダメ親父だった。いや、ダメ親父という言葉の頭に「愛すべき」とつけるべきだろうか。大阪の下町で銭湯を営んでいたが、映画の脚本家を目指す道楽者で、銭湯のほうはもっぽら妻のツヤに任せきり。うだつが上がらず、妻に対していつも頭の上がらない男だった。やがて病でツヤが亡くなると、その寂しさから酒に逃げ、前途有望なスズ子に迷惑をかけてばかりだったことは、私たちの誰もが知るところである。たしかにダメ親父だ。 しかし、いつまでも妻を想い続ける姿や、他者に対する寛容な心の持ち主であること、迷惑はかけてしまうもののスズ子の一番の味方であろうとしている姿勢などが、“愛すべきダメ親父像”につながっていた。 そもそも、大スター・福来スズ子の誕生の道のはじまりは「梅丸少女歌劇団(USK)」にあり、「USK」との出会いの機会をつくったのは梅吉だ。そんなことを考えていると、これまでしばらく疎遠気味だったとはいえ一気に寂しさが込み上げてくる。 朝ドラは(基本的に)ひとりの主人公の人生を描くものだから、当然ながらそこにはさまざまな人の死というものがある。スズ子に関しては先述したとおりだ。これまでの朝ドラでも、“父親の死”というのは非常に大きく扱われてきた。それは遺される側の主人公にとって、その後の人生に影響するものだから当たり前だ。そこにはいろんなかたちのドラマ(=別れ)があった。 近年の作品だと、2022年度後期に放送された『舞いあがれ!』におけるヒロイン・舞(福原遥)と父(高橋克典)との別れを、誰もが鮮明に覚えているのではないだろうか。世界規模での大不況により家業のネジ工場の経営が傾き、父は肉体的にも精神的にも疲弊しながら奔走するも状況は良くならず、心筋梗塞で倒れて救急搬送。助からなかった。 あまりの急展開に心がついていくことができず、ひどい虚無感に襲われたのは私だけではないはずだ。当事者である舞の悲しみはどれほどのものだっただろうか。彼女はパイロットになる夢をあきらめ、家業を支えることになった。舞の場合は父の死が、彼女の人生そのものにも影響を及ぼしたのだ。とはいえドラマとしては、父の遺志を継承していこうと奮闘する舞の姿を描く素晴らしいものになっていた。 2022年度前期に放送された『ちむどんどん』のヒロイン・暢子(稲垣来泉/黒島結菜)と父(大森南朋)の別れもショッキングだった。農作業中に心臓発作を起こし、急逝。放送開始から2週目のことである。父娘の深い交流が描かれる前の別れ。あまりにも早い。早すぎる。しかし暢子や彼女を取り巻く家族たちの姿から、生前の父がどのような人物であったのかを知ることになった。 『ブギウギ』のスズ子と梅吉の別れはどう描かれるのだろうか。ふたりとも底抜けに明るいが、ともに情にもろい。久しぶりに梅吉の娘・鈴子としての表情を見せるかもしれない。スズ子はこれからも“ブギの女王”であり続けるが、そこに何らかの影響は生じてくるのだろう。
折田侑駿