じつは「ビッグバンによって宇宙ができた説」は問題だらけ…残されたナゾと通説に挑む新理論を一挙紹介!
「インフレーション」で問題解決!
実は、前述したビッグバン宇宙モデルの問題点、つまり、1. 地平線問題、2. 平坦性問題、3. 温度ゆらぎの起源、4. モノポール問題、5. グラビティーノ問題を解決する、新たな宇宙モデルの新しい機構が、インフレーションなのです。以下に、それについて紹介します。また、前述した宇宙創成時のインフレーションとは、エネルギースケールが違うことが観測的にわかっているので、ここで説明することは、おそらく2回目以降のインフレーションではなかろうかと考えられています。宇宙初期に加速的に膨張する時期、おそらく大統一が起こるエネルギー、1京GeV、つまり、温度に換算すると1京度の10兆倍ぐらいのエネルギースケールで、インフレーション期があったと仮定されます。その膨張のスピードはすさまじく、光の速さを超えるものだったとするのです。ビッグバンのときのように、時間の1/2乗に比例するなどという勢いではなく、膨張の速度が加速していく加速膨張を通じて急激に大きくなるのです。加速膨張の意味は、後に詳しく説明します。
ビッグバンの前の急激な膨張
そうした急激な加速膨張は、アインシュタイン博士が導入した宇宙項が定数であるときに起きることが知られています。それはアインシュタイン方程式の解の1つなのです。その宇宙項をつくっていると期待されているのが、未発見のスカラー場(もしくはスカラー粒子)です。これはヒッグス場のようにスピン0の場で、インフレーションを引き起こすという意味で、「インフラトン場」と呼ばれることもあります。すでに知られているスカラー場には、既出のヒッグス場がありますね。そのインフラトン場が一定のポテンシャルエネルギーをもつときに、宇宙項のような役割を演じます。 ポテンシャルエネルギーとは、素粒子の場の位置エネルギーに対応するエネルギーです。ポテンシャルエネルギーが高いほど、転がり落ちるときの運動エネルギーを大きくする「ポテンシャル」が高いと理解します。そのポテンシャルの高いところに乗っかって宇宙が始まった場合、インフレーションが自然と起こるのです。 加速的な急激な膨張と聞いても、すぐに思い浮かべることは難しいかもしれません。ビッグバン宇宙の膨張は、爆発的な膨張とも形容されますが、実はそこまで速くないのです。そう聞くと驚かれるかもしれませんね。ビッグバンの膨張の速度が速いといっても、その速度がどんどん遅くなる減速膨張であることが、フリードマン解など理論計算で明らかとなってきました。一方、加速膨張とは、膨張の速度がどんどん速くなっていく膨張なのです。もし、宇宙のエネルギー密度が宇宙定数のような一定のエネルギー密度に支配されたならば、前述のフリードマン方程式では、加速度が正となり、加速膨張を起こすのです。その膨張の様子は指数関数的膨張とも称されます。その様子を次に簡単に説明します。 例えば、そのときの宇宙年齢から、同じくらい宇宙年齢がたつと、宇宙の大きさが約2.7倍になるような膨張の仕方なのです。簡単にするために、次からは、きっちり2倍の場合を例として話します。さらに、最初から測って宇宙年齢の2倍たつと、宇宙の大きさは4倍になります。この性質をもつならば、宇宙年齢の10倍たつと1024倍、20倍たつと約100万倍、30倍たつと約10億倍になるというように、倍々ゲームのように急激に大きくなっていきます。これが指数関数的な、つまり加速的な膨張なのです。インフラトン場のポテンシャルエネルギーが一定の場合、そのエネルギーは宇宙定数とみなすことができます。 宇宙の温度が大統一理論のエネルギースケール(1京度の10兆倍)だったとき、宇宙の年齢は約10-³⁸秒、つまり、1000京分の1秒の1000京分の1でした。その約10-³⁸秒の間に、宇宙は約10²³倍、つまり1兆倍のさらに1000億倍ぐらいの大きさに膨張します。この数は、1センチメートルのビー玉が一瞬の間に銀河の大きさ(約10万光年)になるぐらいの急膨張であったことを示しています。