契機となった「ラーメン屋店長射殺」の防カメ映像も公開…六代目山口組と絆會「特定抗争指定」の新局面
近年、国内最大の指定暴力団・六代目山口組と指定暴力団・絆會との間で拳銃を使用しての殺人事件などが相次いでいる。 【実際の防犯カメラ映像】恐ろしい…六代目山口組系幹部の銃撃に向かう金沢「犯行の一部始終」 昨今の情勢を鑑みて、当局は大きな決断を下した。大阪府、兵庫県、愛知県などの公安委員会は、抗争激化を防ぐために暴力団対策法に基づいて、6月21日に双方を「特定抗争指定暴力団」に指定する厳しい規制に乗り出した。組員らは今後、設定された警戒区域内でおおむね5人以上で集まると、中止命令などを経ずに即逮捕されるため影響は大きい。 特定抗争指定暴力団とは、指定暴力団のうち双方が対立抗争状態にあり一般市民に重大な危害が加えられる恐れがある場合に、暴対法に基づき都道府県公安委員会が指定した組織をいう。特定抗争指定暴力団に指定されると、公安委員会が「警戒区域」を定め、区域内では次のような行為が禁止される。 ・同じ暴力団組員がおおむね5人以上で集まる ・組事務所の新設、立ち入り ・対立する暴力団組員へのつきまとい ・対立する暴力団事務所やその組員の居宅付近をうろつく 上記のような行動が確認されると、中止命令などの行政手続きを経ずに即座に逮捕されるため行動が制限される。今回は双方の拠点がある地域のほか、過去に事件が発生した地域を含めて、神戸市、大阪市、名古屋市、水戸市など6市が警戒区域に設定された。 こうした状況について、指定暴力団の幹部は次のように明かす。 「規制が厳しいために、外出する際には注意が必要だ。警戒区域では5人以上で行動しないようにする。例えば、定例の会合なども警戒区域外で行う。新幹線に乗るにあたっても大阪や名古屋などでは5人で乗車しようとすればホーム上で逮捕されるかもしれない。複数の車で移動すれば5人以上となる。車間をあけての移動となる」 六代目山口組は’15年8月に分裂し、離脱したグループが神戸山口組を結成。双方は対立抗争状態が続いている。絆會(当時は任侠団体山口組)は’17年4月に、神戸山口組から独立して結成された。神戸山口組からはこれとは別に傘下の有力組織、池田組も’20年7月に独立している。 六代目山口組は、神戸山口組、池田組との間でも対立抗争状態にあるとして、すでに特定抗争指定暴力団となっている。今回の指定で、ここにさらに絆會も加わるため、「六代目山口組はトリプルでの指定」となった。最初の分裂・対立抗争が始まってから今夏で10年目を迎えるにあたり、状況は複雑化している。 六代目山口組と絆會の因縁は深い。絆會のナンバー2の若頭・金沢成樹は’20年9月、六代目山口組へ移籍しようとしていた傘下組織の幹部を、長野県内で銃撃し重傷を負わせる事件を起こした。その後、金沢は逃亡を続けていたが、今年2月、潜伏先の仙台市内で発見され殺人未遂容疑で逮捕された。 金沢が引き起こした事件はこれだけではなかった。逃亡中の’22年1月、水戸市内に拠点を構える六代目山口組系組織の事務所で幹部を射殺、さらに’23年4月には神戸市内でラーメン店の店長を兼ねていた六代目山口組弘道会系組長も射殺していたことが後になって判明した。金沢はそれぞれの事件で順次、逮捕されている。 警察当局の幹部は、「六代目(山口組)から絆會への返し(報復)がいつあるか分からない。一般市民が行きかう街中で発砲事件があれば巻き添えが危惧される。六代目と絆會は対立抗争状態にあるのは間違いない」と、今回の特定抗争指定暴力団の指定の意義について強調する。 六代目山口組が’15年8月に分裂して以降、神戸山口組との間で、拳銃を使用した殺人事件や敵対する事務所への発砲、車両の突入など100件以上の事件が発生し、十数人が死亡している。ただ、最近はこの双方の組織の対立抗争が原因とみられる事件の発生は減少傾向だった。その一方で、絆會の金沢が六代目山口組に対して引き起こす事件が続発していた。 警察庁がまとめた’23年末時点の最新データによると、六代目山口組の構成員は約3500人いることに対して、神戸山口組は約140人、池田組と絆會はともに60人と大きな開きがある。前出の警察当局の幹部は、「神戸(山口組)や池田組、絆會は六代目(山口組)との間の勢力差を覆すことはできないだろう。ただ、事件は引き続き発生しているため、対立抗争状態となっていることが認められる。厳しく規制していくことは必要だ」と警戒を強めている。(一部敬称略) 取材・文:尾島正洋 ノンフィクション作家。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当しフリーに。近著に『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)。
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