風景の見方を変えるドキュメンタリー「占領都市」…アムステルダムの日常から発掘される恐怖の記憶
いくつものケースに触れることでわき上がってくるのは、ある感覚。一つ一つの出来事は、過去の不運な誰かの「物語」というよりも、今も誰にでも起こりうる「事実」だという実感だ。そして、私たちの現在は、足もとに堆積(たいせき)している過去によって形作られているということを、この映画は、単なる概念ではなく、生々しい体感として伝える。
本作には新型コロナのパンデミックという近い過去も映りこんでいるのだが、その過去が、現在の社会のそこかしこに影を落としていることを思えば、なおさら、過去と現在のつながりを実感させられるだろう。
人はどうしても、目の前の出来事ばかり見てしまいがちだ。でも、この映画は、そのまなざしの射程距離をぐんと広げる。
登場するすべての場所を記憶するのは容易ではない。だが、重要なのは、この映画が発掘した過去のとてつもないボリュームを感じ、その大きな影に気づくこと。そして、そうした過去にからめとられないようにするためにどうすればいいかに思いをはせること。
ミニマリズムの形をとった、壮大なモニュメントのような映画である。上映時間の長さにひるまず、ぜひ、身を浸してみてほしい。
◇「占領都市」(原題:OCCUPIED CITY)=2023年/イギリス、オランダ、アメリカ/上映時間:251分/日本語字幕:松田千絵/配給:トランスフォーマー、TBSテレビ=東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、同有楽町ほかで公開中
※画像=(C)2023 De Bezette Stad BV and Occupied City Ltd. All Rights Reserved.