『ブギウギ』最終幕への“大スター”になる布石が随所に 小夜の旅立ちが意味するもの
“特別な才能がない”小夜(富田望生)が担っていた役割
スズ子にはスターになる才能がある。だが、才能のあるなしが存在価値ではない。小夜(富田望生)はスズ子に憧れて弟子入りしたものの、歌の才能はなかった。でも、英語に興味を覚え、サム(ジャック・ケネディ)と出会い、彼と共に生きていく道を見出した。 スターにはならなくても、特別な才能がなくても、人として魅力はあるし、幸福の道はある。スズ子は小夜を家族のように、ただただ慈しんだ。 サムも偏見なく小夜を受け止めている。むしろ彼女の、素直さに惚れ込んでいるようだ。サムと小夜、ふたりの関係で良いなと思ったのは、宝くじのくだりだった。なにかと意地汚い小夜が、一枚宝くじを買ってくれたサムにタバコを返した。もらうばかりではなく、義理を返す小夜に、サムも心惹かれたのではないだろうか。実のところ、タバコが要らなかったからなのだが。 小夜は、いつもはとくに何もしない、むしろ、トラブルメーカー的であったが、ごくごくたまに、ほんのちょっとした良さを見せる。そこを見落としてはいけないのだと思う。わかりやすい善行や礼儀正しさを受動するだけではなく、かすかな、その人なりの良さに気づくまなざしをいつでもどこでも持つという能動性を持ちたい。タナケンの言う「間」も然り。羽鳥の作った不思議な歌「コペカチ―タ」然り。見知ったものとは違っているからこその良さに気づくことが豊かさだ。そこに幸運は微笑むだろう。グッド・ラック。
木俣冬