『べらぼう』は“私たちの生きる指針に” 蔦屋重三郎の魅力を脚本・森下佳子に聞く
なぜ蔦重が写楽を仕掛けたのか
――舞台が吉原ということで、女性が性を売るということが描かれますが、視聴者の中には中学生や高校生もいる大河ドラマでそのようなシーンを描くということをどのように考えていますか? 森下: 私の個人的な思いとしては、これを観てもらって、花の井(小芝風花)ちゃんとかちどり(中島瑠菜)ちゃん、きく(かたせ梨乃)さんといった性産業に従事している女郎さんも自分と同じ人で、こういうふうに思っているということを想像ができる大人になる、肥やしにしてもらいたいですし、そうすることによって優しくなってくれたらいいなと思っています。 ――第1話に朝顔(愛希れいか)のエピソードを入れたのはどのような思いがあったのでしょうか? 森下:蔦重に初めて本の世界を教えた存在は資料を見ても誰か確定しているわけではなかったんです。その役目は優しい女郎さんだったんじゃないかと思ったのが一つです。作為と言ってしまえばそうなのかもしれませんが、吉原の女郎さんは基本的にこういう人生を歩む人が多いということを伝えたいというのもありました。 ――綾瀬はるかさんが「九郎助稲荷」として語りを担当しています。 森下:やってくれたらいいなぐらいの感じで、綾瀬はるかさんに聞いてもらいました。割とノリノリでやってる感じがしたんですけど(笑)。ずっと前から綾瀬はるかさんの声は、聞きやすい、耳にスッと入ってくる声だと思っていました。『べらぼう』は説明が多いので、親しみのある声の人がいいなと思って、はるかちゃんがいいんじゃないかとお願いして、やってもらえることになりました。もっとシリアスなバージョンとか、いろいろやってくださったんですけど、江戸らしい語りになりました。 ――唐丸(渡邉斗翔)の蔦重との関係性についても教えてください。 森下:そこは伏せさせていただいてもよろしいでしょうか。ただ、 大事なのは蔦重もかつては捨てられて、行き場がない拾われた子であって、唐丸も行き場がないところを蔦重が今面倒を見てるということが大事なのかなとは思います。 ――横浜流星さんと渡邉斗翔さんの2人のやり取りを観ていかがでしたか? 森下:かわいらしいですよね。ただ、唐丸が思ったよりも普通のやり取りをしているので、こいつはいろいろ考えると、それは恐ろしいなと思ってます。 ――今後は東洲斎写楽が登場してくると思いますが、その謎めいた存在をどのように描いていこうと考えていますか? 森下:写楽の正体については、 学術的には斎藤十郎兵衛で落ち着いてはいるんですよね。100%確定はできないと思うんですけど、私としては写楽が誰かということよりも、なぜ蔦重が写楽を仕掛けたのかというところに焦点を当てていきたい。その当時、写楽は画期的ではあったけれど、結果としては失敗なんですよね。なぜそんなことを人生の最後になって、しかも金もない時期にやったのかを最大の謎として私自身も考えていきたいなと思います。
渡辺彰浩