『ブギウギ』趣里と草彅剛の魂がぶつかり合う “絶縁”の言葉に垣間見える羽鳥の業
スズ子(趣里)の引退の意思を唯一尊重した愛子(このか)
「君が引退するということは今まで作った歌をすべて葬り去ることになる。歌を殺すことになる。そんなことは絶対に僕は許さないよ(中略)君は死ぬまで歌手なんだ」 そんな強い言葉とは裏腹に、怒ってるようにも笑っているようにも見える善一の表情に全身が粟立つ。福来スズ子という歌手の魅力に取り憑かれた彼の業のようなものが見えた気がした。反対されるだろうと思いつつも絶縁とまで言われて驚いたのか、そこまで歌手である自分に思い入れを持ってくれていることが嬉しかったのか、それともある種の恐ろしさを感じたのか。わからないけれど、善一の言葉を受けて呆然とするスズ子の涙にも心を打たれた。 それでもなお、揺らがないほどに彼女の決意は固い。スズ子は自宅に戻り、家族にも引退の意向を伝える。タケシは大きなショックを受け、「僕は認めない」と家を飛び出していった。本人が辞めると言ったって、周りがそれを認めてくれないほどに歌手・福来スズ子の存在は大きなものになっている。そんな彼女の意志を唯一尊重する姿勢を見せるのが、愛子(このか)だ。足の早い転校生とかけっこで競争をすることになった時、スズ子は愛子に逃げる選択肢も与えてくれた。義理と人情の精神は確実に愛子にも受け継がれている。今度は自分の番と言わんばかりに、自分の味方でいてくれようとする愛子をスズ子は抱きしめた。 これまでの人生になくてはならなかった歌との別れ。最終週にして、スズ子にとっては苦しい展開だ。
苫とり子