<ジモトピア>歴史香る「人形のまち」に新たな風 甘酒や小松菜、イチゴ…岩槻のつまったベーグルも
東武鉄道の岩槻駅東口を出て振り返ると、43段の階段に内裏びなが描かれていて目を見張る。その階段アートを背に駅前ロータリーに出ると、周囲には人形店が並ぶ。ここは、“人形のまち岩槻”。店先にはのぼり旗を立て、屋号や家紋が染め抜かれた小さくて横長の水引きのれんが下がる。通りからでも店内の華やぎがうかがえる。 江戸時代からの城下町、岩槻のメイン通りである市宿通りへ。目指す「MIYATAYAベーグル」店へは駅から4分ほどで着く。100年を超す古民家を改装した店舗。名前はかつて、乾物屋だった屋号から付けたという。不動産業や飲食業などの経験がある浅野高志社長(48)は「ここに入れたのは奇跡的」と話した。 天井が高く開放的な店内ではベーグルに目線が集中する。彩りもよく、並んだベーグルを前にどれにするか迷っていると、「ちょっと上を見てください」と浅野さん。店内の真上に見たことのないくらい大きな梁(はり)がある。今回の改装工事で現れ、店のシンボルになったという。
岩槻出身のスタッフ、町の老舗酒蔵の鈴木酒造の酒かすを店内で甘酒にして作ったベーグルがあり、地元農家との連携により小松菜やイチゴを使ったこだわりベーグルも出来上がった。ベーグルの潜在力は高く「次は梨を産官学で研究中」と浅野さんは明かす。「岩槻が詰まったベーグルがあるの知ってる?」と自慢したくなるベーグルを店内のいすでかみしめた。ほんのり香る甘酒に誘われて歩き出す。 かつて「ミヤタヤ横丁」といわれていた道を挟み、国の登録有形文化財に指定された大正期のモダンな造りの旧中井銀行の建物がある。大正から昭和初期にかけて町の中心で、大いににぎわっていた面影が残る。 裏小路を抜けて3分ほど行くと、赤れんがの煙突が目印の鈴木酒造に着く。私設の酒蔵資料館もあり、間近に昔の道具類や町の歴史資料などを見ることができる。社長の鈴木徹さん(70)は新規参入した浅野さんに対し「新しい商売はいいね。発想もたけてて、全力応援だよ」と話し、笑顔が弾けた。