「ポンコツ人生だった」NHK朝ドラ『虎に翼』ヒロイン伊藤沙莉が女優として「居場所を見つけるまで」
日本初の女性弁護士で、後に裁判官を務めた三淵嘉子の人生をモデルにしたNHK連続テレビ小説『虎に翼』。第6週では、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)たちがいよいよ高等試験(司法試験)に挑む。 【浮気も乗り越えて…写真あり】大人気女優・伊藤沙莉が密かに愛を育む「意外なお相手」 しかし、勘違いしないでほしい。今回の朝ドラは、閉鎖的な法曹界を上り詰めていく単なる女性の社会進出物語ではない。 「第5週では父・直言(岡部たかし)が政財界を揺るがす『共亜事件』に連座して逮捕されるが、父の潔白を証明するために寅子(伊藤)たちが奔走して調書の矛盾点をあぶり出す。 その過程で、現代にも通じる課題を浮き彫りにするなど、多角的な視点を盛り込む手腕は見事としか言いようがありません。110作目を迎え、“朝ドラはまだまだ進化できる”。そんな可能性を秘めた意欲作ではないでしょうか」(制作会社プロデューサー) その中心に座るのが、寅子を演じる伊藤沙莉だ。 5月3日に放送された第25話の法廷シーンは圧巻の一言に尽きる。 逆転無罪を勝ち取り、母・はる(石田ゆり子)と抱き合い、狂おしいほどの泣き顔を見せたかと思うと、振り返る父を見て勝利を噛みしめるように何度も頷く。その寅子の演技に魅せられ、心揺さぶられたのは私だけではあるまい。 彼女は昨年に放送された、死にたい気持ちを抱えながらも生きていく人々を描いたドラマ『ももさんと7人のパパゲーノ』に主演。制作統括を務めた尾崎裕和氏は、伊藤の演技を目の当たりにして 「繊細な作品でしたが、ポジティブに生きていくんだという思いが感じられるお芝居を見せていただきました」 「前向きでチャーミングで明るい寅子は、伊藤さん以外にいない」 とオファーした理由について語っている。 どんな環境に置かれても、明るくホジティブにまっすぐ生きていく。そんな役どころは、まさに波乱万丈を地でいく女優・伊藤沙莉のハマり役なのかもしれない。 「3人きょうだいの末っ子に生まれた伊藤。しかし伊藤が2歳の時、会社が倒産して父は失踪。その後、3枚の布団に叔母さんを含め家族5人が寝るなど辛酸を舐めますが、9歳の時オーディションで選ばれ、ドラマ『14ヶ月~妻が子供に還っていく~』(日本テレビ系)に出演。演技経験がまったくなかった伊藤が主役に抜擢されています」(ワイドショー関係者) しかし、天才子役のシンデレラストーリーが待っていたわけではない。 ドラマ『みんな昔は子供だった』『女王の教室』で爪痕を残すも、18歳の頃には事務所の子役部門が解散。新たな事務所に潜り込んだものの仕事はまったくなく、引退の二文字が頭をかすめる。 「そんな時、ドラマ『GTO』(フジテレビ系)のオーディションに合格。恩師と呼ぶ飯塚健監督から『3年頑張れ。3年で確実に状況が変わる』と叱咤激励され、伊藤は女優としてのスキルをさらに磨きます。 その甲斐あって3年後に朝ドラ『ひよっこ』(NHK)に出演。注目を集めると、映画『獣道』の主役にも抜擢されイタリアの『ウディネ・ファーイースト映画祭』に出品され、女優として大きな飛躍を遂げました」(前出・プロデューサー) 特に映画『獣道』は、伊藤の女優人生にとって転機となった作品ではないか。 「主人公・愛衣(伊藤)は狂信的な母親によって宗教施設に預けられ、教団摘発を機に中学に通うもドロップアウト。その後も自分の居場所を探し、さまざまな家庭や仕事を転々とする壮絶な人生を裸になることも厭わずに演じ切りました。 映画『ミッドナイトスワン』や配信ドラマ『全裸監督』で知られる内田英治氏が、脚本・監督を務めた意欲作でもあります。伊藤にとっても“すごく自分の中で挑戦というか、戦いの多かった作品”と話しています」(制作会社ディレクター) テストで0点なんて余裕。コンビニのバイトでレジを打っていて寝落ち。居酒屋のバイトでビラ配りをしていて行方不明。自身の人生を“ポンコツ”と呼ぶ伊藤沙莉は9歳の時、お芝居と出会い、彼女もまた女優としての居場所を探し続けてきたのだ。 米津玄師の主題歌『さよーならまたいつか!』がかかり、ビヨンセの『Run The World(Girls)』にヒントを得たタイトルバックで寅子が踊る。ただそれだけで涙してしまうのは、やはり彼女の半生とオーバーラップしてしまうからなのか。 5月4日に30歳を迎えた伊藤沙莉。寅子演じる彼女こそ今作で新たな翼を手に入れ、女優として空高く羽ばたいていくに違いない――。 文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版
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