県境愛好家でフリーライターの西村まさゆきさん

　全国で一番短い県境と一番長い県境がともに愛媛にあるらしい。四国山地沿いは確かに長そうだが、短い県境ってどういうことだろう？。情報を発信している「県境愛好家」にコンタクトを取りつつ最短、最長の県境を肌身で感じようと6月中旬、海を渡り山を越え、現地取材を敢行した。神さまが綱引きをしてくびれた島、公共施設に置かれた謎の折れた石碑、高知への分県騒動―。興味深い地域史の数々に出合った。（松本尚也） 　話を聞いたのは「地図でめぐる　日本の県境100」（天夢人）などの著書があるフリーライターの西村まさゆきさん（48）＝東京都。全国の県境の長さに関し、実は公的にまとまった資料はなく、西村さんは「県境」の条件を「隣り合う二つの都道府県同士が陸上で接しているか、橋やトンネルでつながっている」などと独自に設定し、調査したという。地理好きが集うサイト「都道府県市区町村」や国土地理院のサイト「地理院地図」などを基に条件を当てはめた結果、全国に92本の「県境」があることが分かった。 　西村さんがまとめた短い県境のランキングトップ10がこちら。 　1位は愛媛と広島の県境で、長さはなんと「0・1キロ」ほどとある。しかし、瀬戸内海に隔てられた愛媛と広島の間に「陸続き」の県境なんてあっただろうか。西村さんは「島の上に県境があります」と解説する。 　地理院地図には、確かに「瓢箪（ひょうたん）島」という島の上を東西に横切る県境の線が引かれている。住所は北側が（広島県尾道市）瀬戸田町垂水、南側が（今治市）上浦町井口とある。瀬戸内しまなみ海道が通る愛媛側の大三島と広島側の生口島のちょうど中間辺りに浮かぶ無人島で、多々羅大橋を愛媛側から渡る際、左側に見える。 　西村さんによると、岩礁などを除いた海に浮かぶ島のうち、県境があるのは瓢箪島を含め瀬戸内海の五つの島だけ。残る四つは、取揚島（兵庫県赤穂市・岡山県備前市）、石島＝井島（岡山県玉野市・香川県直島町）、大槌島（岡山県玉野市・高松市）、甲島（広島県大竹市・山口県岩国市）。瓢箪島は地理好きの間でも話題に上る島で、県境を示す境界の石があるという。 　今治市や尾道市などによると、瓢箪島の大きさは周囲約700メートル、面積1万7576平方メートル。南北に細長く、文字の通り瓢箪のような形をしている。くびれた辺りを境に北側と南側に低い山があり、一番高い所は標高35・2メートル。南の愛媛側は大三島の井田八幡神社、北の広島側は生口島「垂水区」の所有になっている。