ジュビロJ1残留理由に小川航基起用の名波采配ヒット!
驚かれたような抑揚が込められた言葉を、背後から味方に投げかけられた。誰だったかは確認していないが、確か大久保嘉人の声だったと、ジュビロ磐田のFW小川航基は振り返る。 「お前が行くのか、と聞かれたので。『はい、行きます』と言って、蹴らせてもらいました」 J2の6位から勝ち上がってきた東京ヴェルディを、ホームのヤマハスタジアム磐田に迎えた8日のJ1参入プレーオフ決定戦。試合中に獲得したPKを誰が蹴るのかを、ジュビロは事前に決めていなかった。というよりも、ピッチ上における選手たちの判断に名波浩監督は委ねていた。 果たして、ともに無得点で迎えた前半41分に、絶好の先制機がジュビロに訪れる。最終ラインから入った縦パスを大久保がワンタッチで落とし、MF山田大記が狙いすましたスルーパスをヴェルディの最終ラインの裏へ通す。 あうんの呼吸で反応したのは小川。トップスピードでペナルティーエリア内へ侵入し、先にボールを触って抜け出そうとした直後に、飛び出してきたGK上福元直人に足を刈られた。もんどり打って倒れ、激痛に顔を歪めながらも、PKを告げる主審のホイッスルをしっかり聞いていた。 この瞬間に、自分が蹴ると心に決めた。ボールを離そうとしない小川に、J1歴代最多の184ゴールを決めている大久保が驚いたのも無理はない。神奈川・桐光学園高から加入して3年目の小川はわずか1ゴール。それでも、186cm、78kgの体全体から「絶対に決めてやる」というオーラが放たれている。 「ウチが押していた時間帯だったからこそ、先に1点がほしかった。あのままゴールが入らなくて、最後にポンと決められる状況だけは避けたかったので」 右足のインサイドから放たれた正確な弾道が、ダイブした上福元の逆を突いてゴール左隅に決まる。引き分けでもJ1に残留できるアドバンテージをもつジュビロにとって、計り知れないほど価値のある先制点。ベンチ前で見守っていた名波監督も、心のなかでガッツポーズを作っていた。 「先制したことで、試合を自分たちで動かす必要がなくなった」 後半アディショナルタイムに献上したオウンゴールで、川崎フロンターレに敗れた1週間前の最終節。キックオフ前の13位から、J1参入プレーオフへ回る16位に転落した直後も悪夢の連鎖は続いた。 4日連続の非公開練習が実施された中で、チーム最多の11ゴールをあげたFW川又堅碁と司令塔・中村俊輔がけがを負った。自身も足を痛め、松葉杖姿で指揮を執った名波監督は、1トップに今シーズンの先発が4度だけだった小川を大抜擢。 トップ下には大久保を配置する新布陣を決めた。