「今となっては貴重すぎる…」矢沢永吉の異色教師ドラマ『アリよさらば』プレイバック 若き日の人気俳優の姿も…
■突如始まるピアノ弾き語りやシャワーシーン
矢沢さんのロックミュージシャンとしてのカッコよさがさりげなく登場するのも本作の見どころであり、ニクい演出だった。 たとえば、第1話「初登校」にて。朝、なかなか起きられない良太にモーニングコールが掛かってくる。すると良太は電話機を風呂場まで運び、会話をしながら豪快にシャワーを浴びるのだ。矢沢さんのたくましい上半身が露わになったシーンに、当時の“YAZAWAファン”は歓喜したことだろう。 また良太は、悩むシーンにおいてなぜか音楽室で過ごすことが多い。同じく第1話の終盤、良太はピアノの弾き語りを披露している。 教師を始めたばかりのころ、良太は女性教師に対し“3カ月経ったらきれいさっぱりやめる”と宣言している。女性教師が教室を出たあと、突如流れるジャズの調べ……。それに合わせて良太はおもむろにピアノを弾き始め、エンディングテーマである『いつの日か』を歌い出すのだ。 通常のドラマであれば、なぜ主人公が急にピアノを弾いて歌うのか……と疑問に思ってしまうだろうが、そこはさすがロックミュージシャンの矢沢さんだ。ハスキーな声での熱唱がむしろ心地良く、そのまま自然にエンディングを迎えるのである。 このようなシーンは、矢沢さんが演じる教師像に“型にはまらない自由さ”を感じさせるものであり、視聴者に鮮烈な印象を残した。俳優としての矢沢さんを見られるだけでなく、ロックスターとしての魅力を随所に感じられる点が、このドラマの大きな魅力の一つであった。
■YAZAWAだけじゃない! 生徒役も豪華な顔ぶれがズラリ
『アリよさらば』は矢沢さんはもちろん、当時人気の若手俳優が生徒役として出演していたことでも話題となった。 長瀬智也さん、松岡昌宏さん、井ノ原快彦をはじめ、加藤晴彦さんや小沢真珠さんなど、現在でもマルチに活躍している俳優陣が勢ぞろいしており、今考えても豪華なキャストぶりに驚いてしまう。 また彼らが演じた生徒たちは、いじめや家庭問題、恋愛など、当時の高校生がリアルに抱える悩みを同じように持っており、そのこともストーリーに深みを与えていたように思う。 たとえば小島聖さん演じる園田春野は、高校生という立場で同級生の子どもを妊娠してしまう。周りには中絶をすすめられるものの、自分の体の中で育つ命に葛藤を抱える春野。良太は生物研究員だった立場から、“子どもをおろすのは動物の中では人間しかいない”と中絶に反対したりもしている。だが、物語は思わぬ方向へと向かっていくのだが……。 矢沢さん演じる良太は、彼らの問題に向き合う過程で厳しさと優しさのギャップを見せており、その繊細な演技がドラマをより魅力的なものにしていた。キャストの豪華さとリアルな描写が織り成すストーリーは、多くの視聴者にとって忘れられないものとなった。 『アリよさらば』では、ロックミュージシャンとしてのカッコよさもさりげなく見せつつ、自然な演技も好評だった矢沢さん。 スーパースターである矢沢さんがあっという間に問題を解決してしまうのではなく、一人の教師として時には解決できない問題に葛藤する姿が新しく、魅力的だった。 来年はソロデビュー50周年を迎える矢沢さん。これからも、日本のみならず世界中のファンに愛される「永ちゃん」の進化と飛躍に大いに期待したい。
でかいペンギン