望海風斗、“リアルな世界”を自然体で 宝塚退団から3年、「いい出会いがたくさんあった」【インタビュー後編】
2021年4月に宝塚歌劇団を卒業してから早3年。今夏、再演される「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」でヒロインのサティーン役を再び演じる元雪組トップスターの望海風斗は、「ガイズ&ドールズ」「ドリームガールズ」などのブロードウェー作品や、日本発信のオリジナルミュージカル「イザボー」といった話題作に恵まれ、圧倒的な歌唱力と情感あふれる演技で、ミュージカル女優として高い評価を得てきた。 「いい出会いがたくさんあって、ここまで来られてありがたいです。宝塚をやめてから最初の頃は、周りは元トップスターとして見てくださるけど、私自身は新人のつもりでいたので、自分自身が何者なのか、どっちつかずでバランスが難しかった。3年かかって、やっと落ち着いてきました」と実感を込める。 宝塚では03年に初舞台を踏み、花組で研さんを積んで14年に雪組に組替え。17年にトップスターに就いた。男役としての集大成を見せたのが、20年に上演された「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」のヌードルス役だ。裏社会を生きるユダヤ系ギャングの栄光と挫折を描いた原作映画は1984年に公開され、ロバート・デ・ニーロがヌードルスを演じている。望海は少年時代の無邪気さ、青年期の情熱と色気、そして壮年期の男の哀愁を見事に演じ分けた。特に、夢破れ、田舎でひっそり暮らす白髪交じりの男を、ツイードのジャケットにくたびれたズボンのいでたちでさえカッコ良く見せて、男役としての到達点を感じさせた。 「男役の個性を考えた時に、パシッとカッコつけるのではなく、哀愁がにじみ出るような人間味のある人を表現できたらいいなと思っていました。ロバート・デ・ニーロみたいな男役をやりたいと憧れたことがかなって、うれしかった」と振り返る。 今は、そんな究極の男役からは想像できないほど、女性の役を自然に演じているが、「男役でいた時も、男だったかというと、そうではなく、リアルな男性に近づきたくて表現を勉強していただけです」と明かす。「ただ、宝塚の表現と、リアルな舞台の表現は違う。男役、娘役というベールがあって様式的な世界から、リアルを求められる世界に戻ってきたという感覚があります」 女優としてのこれからについても自然体だ。「宝塚でトップスターになるのは最大のゴールだったので、何かを目指すことの大変さは知っています。健康で、体が動く状態でいるために日々やらなければいけないことをコツコツやりつつ、長く舞台に立てたらいいなと思います」 昨年秋、古巣の宝塚歌劇団が激震に見舞われた。そのことについては、「ずっと考えてきました」と望海。「私自身は育ててもらった場所であり、宝塚がなかったら今の自分はいない」と20年近くを過ごした場所に感謝しつつ、複雑な胸中も口にした。「今は、いろいろと新しく変わっていく時期でもある。いろんな意見があると思うけれど、私は、あったことを忘れてはいけないという思いを持って前進していきたい」と率直に語った。 そんな思いをシンガー・ソングライターのアンジェラ・アキに伝えて生まれたのが、「Breath」という新曲だ。「生きていく中で、いろんな出来事に遭遇して立ち止まりたくなる時があると思う。こういう世界に生きていたら、SNSにさらされることもあるし、普通に生きていたって息苦しいことがたくさんある。それでも前に進んでいく人たちへのメッセージです」(時事通信社・中村正子)