『虎に翼』の“朝ドラらしくない”面白さ 主演の伊藤沙莉に米津玄師の主題歌も完璧な抜擢に
幼少時代をふっとばし、一気に本題へと進んだ『虎に翼』
第1週から、朝ドラによくあるほのぼの幼少時代をふっとばし、一気に本題へと進み、法律パートのキーマン・穂高と桂場(松山ケンイチ)が第2話から出ている構成もまた、才気煥発な印象がある。 過去、社会問題について大いに語れる知性派エンタメとして人気だったドラマに出ていた俳優も揃っている。朝ドラ『カーネーション』から尾野真千子(ナレーション)と小林薫、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)から石田ゆり子、『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)から岡部たかし……。 主人公の伊藤沙莉や石田ゆり子には、頭の回転のいい俳優ながら、その頭の良さを前面に出さず、粛々と職務を全うしている頼もしさを感じ、このドラマにふさわしいキャスティングだと感じる。 きっと誰もが世の中に悔しい思いをしている。その気持ちを代弁してくれているのがほかならぬ米津玄師である。彼の作った主題歌「さよーならまたいつか!」は『夢十夜』かと思うような幽玄なワードもありながら、いまを生きる人間の悔しくてぐっと空を見上げるような感情が鳥のような高音で歌われ、聞いている人の心を絞り出すようだ。 米津は主題歌発表時にこのようなコメントをしている。 「まさか夜中でばかり生きている自分が朝ドラの曲を作ることになるとは思いもしませんでした。寅子の生きざまに思いをはせ、男性である自分がどのようにこのお話に介入すべきか精査しつつ「毎朝聴けるものを」と意気込み作りました」 これまで夜のドラマをひとり見てしみじみ浸らせてくれる楽曲を生み出してきた米津が朝ドラに寄り添ったように見えるが、これほどやんちゃなワードが散りばめられている朝ドラ主題歌もはこれまでにはないと感じる。「唾」というワードはおよそ朝ドラらしくない。でも唯一濁った音で発するそこが逃げ場になる人もたぶんいることを、米津玄師は大衆の心を、よくわかっていらっしゃる。
木俣冬