現役引退についても言及…宇野昌磨の「回転不足騒動」を招いたフィギュアスケート界の深刻な病巣
12月7日に北京で開幕するフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルを前に、世界選手権男子2連覇中の宇野昌磨(25・トヨタ自動車)の発言が物議を醸している。 【写真】「競技から退くのも全然ある…」回転不足ジャッジに困惑の宇野昌磨 発端となったのはGPシリーズ第6戦、NHK杯男子フリーだった。ショートプログラム(SP)首位の鍵山優真(20・オリエンタルバイオ/中京大)を5・31点差で追う宇野はループ、フリップ、トーループの3種類計4度の4回転ジャンプを着氷したが、いずれも4分の1の回転不足を示す「q」判定を受けたのだ。 フリートップの186・35点を出したものの、合計得点で鍵山に1・84点届かずの2位。演技直後の放送局によるインタビューでは「いろんな感情はあります。いらんことを喋りそうなんで、今は黙って帰ろうと思います」と感情を押し殺した。 当日の宇野の演技をあらためて振り返るとしよう。 最終滑走の鍵山を残し、11番目でリンク中央へ。演目は宮本賢二氏振り付けの『Timelapse/ Spiegel im Spiegel』。2週間前のGP第4戦中国杯でミスがあった冒頭の4回転ループ、続く4回転フリップは、着氷後にスケーティングが滑らかに流れる会心の跳躍だった。 中盤のステップも切れ味良く、最高難度のレベル4をマーク。後半は4回転ー3回転の連続トーループを降りると、単発の4回転トーループが2回転になったものの冷静に対処して、次のジャンプを4回転ー2回転の連続トーループに変更して演技をまとめて見せた。 曲が終わり、思わず白い歯がこぼれる宇野。スタンディングオベーションを受け、今季自身初の200点超えも十分に予感させる内容だった。それだけに結果は受け止めきれないものだった。 「ジャンプだけではなく、つなぎもステップも悪くなかった。結構、点数は伸びるかなと思い描いていた」と宇野は自信を見せたが、キス・アンド・クライのモニターに映しだされた得点を見た瞬間、表情が曇った。「回転不足を取られたんだろうな」。そう言い残して努めて冷静にバックヤードに戻ったが、そこで採点の詳細を確認すると、予想以上の厳しい判定に驚愕した。 「結構きれい(に跳べた)かなと思ったんですけど。跳んだ4回転全部(で回転不足を)取られたので、これは無理だなと。失敗したジャンプで取られるならわかるんですけど……厳しいなとは思いました」(宇野) テレビ中継の際に表示された演技中のリアルタイムの得点では、4回転ループの出来栄え加点(GOE)が3・30点、4回転フリップも2・99点と高い評価を得ていた。テレビ解説を務めていた2002年ソルトレークシティー五輪4位の本田武史氏も「流れもあって良かった」と語ったが、スロー再生で確認した後に「q」判定となり、GOEを評価する9人のジャッジはルールに従い「マイナス2」以上の減点。結局、両方のジャンプのGOEは0点となり、得点が伸び悩む大きな要因となった。 「あらためて今日の演技はすごく良かったなって思ってますし、これ以上、何を頑張るのかっていう……。僕がここから改善できるものが、ジャンプには存在しないので、表現をこれからも頑張っていきたいと思っていますけれども、そこまで点数を求めないなら、競技じゃなくてショーをやってればいいじゃんっていうのが、皆さんの反応だと思いますし、僕もそう思います。今日のジャンプ以上は多分難しいので、競技から退くっていうのも全然あるなって思う試合でした」 演技後、宇野が引退について言及したことが、衝撃の大きさを物語っている。 ジャンプの回転不足の評価はこれまで何度も議論に上ってきた。着氷時に右足首を回すように降りる宇野の4回転ジャンプはこれまで、4回転としての認定を受け、その上で高いGOE評価もなされてきた。 今回のジャンプも以前と遜色ない内容に見え、過去に五輪選手を輩出したある有名コーチは「フリップは厳しく見ればq判定はあり得るが、ループは回転不足とされる余地はなかった」と語った。 宇野は「採点は人がつけるものなので、人それぞれだと思いますし、別に点数がどうとか、ルールがどうとは言うつもりはないです」と言うが、問題はNHK杯で多くの選手が回転不足を厳しく判定されたことだ。 前出のコーチは同じGPシリーズの第3戦フランス杯が「最も回転不足の判定が緩かった」と証言。スケートアメリカも基準は比較的甘かったといい、「厳しくするなら厳しく、甘くするなら甘くする。ルールで厳格に決めてもらえれば、それに沿った練習をしていく。大会ごと、ジャッジごとに基準がころころ変わることが選手も指導者も困らせる」と指摘した。 選手がジャンプなどの技を判定するテクニカルパネルに、判定理由を問うことは禁止されている。それを知っているはずの宇野が語った「ルールとかは本当に僕たちが決めてることじゃないので、ただ、どんなふうに(ジャッジの)方向性をしたいのかということは、聞いてみたい気はします」との言葉が、精いっぱいの皮肉に聞こえた。 何万本も跳んで習得した技術を急に否定されては、選手たちもやっていられない。好き嫌いではなく、一貫した判定を行うことが競技を成熟させ、見ている人に感動を与えることを今一度、ジャッジには考えてもらいたい。 取材・文:秦野大知
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