「詰め込み過ぎてないですか?」 銀シャリ・橋本直、些細な気付きを繊細に綴った初エッセイ集
漫才、エッセイで見せる言葉のセンスの裏には読書体験がある。本好きだった父親の影響もあり、中学生のときにサッカー日本代表を描いた一志治夫『狂気の左サイドバック』でスポーツ・ノンフィクションに目覚め、高校の終わり頃にはドラマの原作になった桐野夏生『OUT』で小説の面白さを知った。 大学時代、お笑いのビデオを夜遅くまで見ていると、家族が寝静まった朝4時過ぎに朝刊が届く音がする。新聞や地域情報誌からコラムを切り抜いてファイルに入れ、学校に行くときに読むくらい活字にはまっていた。 今回、エッセイを一冊にまとめたら、芸能界の話はほとんどなく、日常の風景ばかりだった。 「自分は日々の暮らしの中で、ちょっとしたことに気づくのが好きなんだと改めて思いました。取るに足らないことを、ちょっとだけ足るようにして世に送り出したい。僕は毎日を繰り返し丁寧に生きてる人が好きなんですよ」 あとで振り返ったら、いちばん愛おしいのは普通の日々だと思っている。仕事では芸能界という「ぶっ飛んだ世界」にいるからこそ、何でもない日常がよりくっきりと色鮮やかに見えているのかもしれない。そんな橋本さんのメガネで世の中を眺められる20編が収められている。 (ライター・仲宇佐ゆり) ※AERA 2024年11月25日号
仲宇佐ゆり