かつて資生堂が売却した「ツバキ」ブランド、販売会社は新ブランドも投入し、株式上場を準備中
発売に当たり、下準備には特に力を入れてきた。以前のように最初からマスをターゲットにしたテレビCMを打つのではなく、新興メーカーに近い手法で若年層への認知拡大を狙ってきた。 ■2本柱で新興メーカーと勝負 今年2月にドラッグストア等で全国展開するまでの3カ月間、SNS上のキャンペーンを実施、インフルエンサーを集めた発表会や原宿での体験型ポップアップイベントを行うなど、入念に周知徹底を進めてきた。 流通面でも、ユーザーの口コミを強みとするコスメサイト「アットコスメ」で先行発売し、品質のよさや商品の特徴を丁寧に伝えたことで「発売直後から軌道に乗せることができた」(小森哲郎社長)という。
今後は高価格帯がプラストゥモロー、低価格帯はツバキという2本柱の体制でシェア獲得に挑む。 最近のシャンプー市場は目新しい商品が続々と投入され、消費者に特定の商品を購入し続けてもらうことは難しい状況だ。新興勢に遅れを取らず、着実にリピート客を獲得していくことが焦点となる。 中国を軸に展開する海外の拡大もポイントになりそうだ。ファイントゥデイの海外売上高比率はすでに5割を超える。資生堂が海外進出を進める際の「先鋒隊」が低価格帯の日用品事業だったからだ。しかし、十分な投資がなされず、新商品に乏しいという課題もあった。
独立した現在は、地域ごとに必要な商品の拡充や、マーケティングの見直しを進めている最中だ。例えばボディソープの「クユラ」では、中国で需要の高い抹茶の成分をアピールした商品を新たに投入している。 こうした中で大化けの可能性を秘めるのがツバキだ。国内ではこれまで培ってきたイメージを変えずに低価格帯で伸ばす構えだが、韓国など地域によっては2000円程度で販売しても好調に売れているという。 ■ニッチ市場で勝負できるか
小森社長は「アジアの国々でもヘアケアのプレミアム化が進行している。コミュニケーション方法やチャネルを変更したことで、ツバキの高いポテンシャルが見えてきた」と、高価格帯でのツバキの活躍に期待する。 海外は上場で調達した資金を元手とした買収も検討する。勢いのあるファブレスメーカーを買収できれば、規模拡大や工場の稼働率向上が期待できる。その一方で、海外のOEM(製造受託)メーカーを利用して素早く商品開発を行うことも視野に入れる。
アジア各国など海外展開を広げるうえで、マス向け市場ではP&Gやユニリーバと戦うことになる。高価格帯など独自の立ち位置で消費者のニーズをとらえられるかが明暗を分けそうだ。 一段と競争が激しくなる日用品の市場。ファイントゥデイも資生堂時代とは異なる戦い方が求められる。新商品の開発で各地のニーズに素早く対応できるかが、成長の試金石となる。
伊藤 退助 :東洋経済 記者