ミュージカル『ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち』

2月10日（土）よりミュージカル『ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち』のプレビュー公演が東京・パルテノン多摩 大ホールで開幕した。 【全ての写真】ミュージカル『ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち』 2023年、韓国・ソウルの演劇の街・テハンノで上演され評判を呼んだ今作。18世紀のロンドンで、シェイクスピアの遺作とされる戯曲の贋作議論に巻き込まれた父子と、その父子と関わる未知の紳士Hの物語が紡がれる。実際に起きたできごとをベースにした3人ミュージカルだ。 事前の会見で、主演の大内リオンは「稽古のときから初日が楽しみでした」「100分間、ほとんど舞台に出っぱなしなので、いろんな表情や心情、成長していく過程を見ていただけると思います。演じている僕でもグッと来るシーンがたくさんあります」と語った。大内演じる息子・ヘンリーの父であるサミュエルを演じる駒田一は大内を「スポンジのような吸収力」と評し、「ヘンリーの成長物語であると同時に、父・サミュエルの成長物語でもある」「息子をほったらかしにして『自分が、自分が』という気持ちの強いサミュエルがどれだけ成長していけるか、息子に愛情を注いでいけるかを見ていただきたい」と見どころを伝える。謎の紳士・H役の岡幸二郎は「微妙で難しい役どころで、お客様にどう見えるのかが楽しみ」と期待を込め、楽曲についても「こんなに四苦八苦したのは久しぶりでしたが、素敵な曲が揃っています」と魅力を語った。 幕が開くと舞台下手にはピアノ、ヴァイオリン、チェロの3人が控えている。最小限の構成ながら豊かな演奏で楽曲を盛り上げてゆく。死後永きにわたって人々の注目を集めるシェイクスピアという存在、そして彼の未発表戯曲がひと組の父子を狂わせていくようすが、テンポよく展開されていく。 自分に関心のない父・サミュエルの関心を引きたいと願うあまり、道を踏み外してしまう息子・ヘンリー（大内）の気持ちが切ない。愛情を求め、空想に心を遊ばせるヘンリーを、初ミュージカル、初主演の大内がみずみずしく演じて見せる。大内について演出の元吉庸泰が「（稽古を重ねて）座長としての責任感が身についてきた」と語っていたとおり、堂々とした振る舞いで中心に立って見せる。 次々とドラマティックなナンバーが物語を盛り上げていく。大内が「稽古で（自分の）歌声の武器を引き出してくれた」と語る岡、そして駒田との3人のハーモニーが美しく響く。建物を形どったセットの壁に映像が映しだされ、そこが劇場にも、法廷にも、星空にもなる。役者3人＋演奏者3人という最小限の人数でありながら、物足りなさを感じるシーンはまるでなく、むしろ華やかさをたっぷりと味わっているうち、あっという間に100分間が過ぎ去っていく。 シェイクスピアを題材にとった野心的な作品を、さらに日本版としてブラッシュアップしたチャレンジングなミュージカル。新しさと普遍性の入り混じった作品として、ミュージカル俳優大内リオンのデビュー作として、しっかりと見届けたい。 取材・文：釣木文恵 ＜公演情報＞ ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち 【プレビュー公演】 公演日程：2024年2月10日（土）～ 2月12日（月） 会場：パルテノン多摩 大ホール 【兵庫公演】 公演日程：2024年2月15日（木）～ 2月18日（日） 会場：兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 【東京公演】 公演日程：2024年2月28日（水）～ 3月4日（月） 会場：サンシャイン劇場