造船・鉄鋼の交渉決着、厚板2万円値上げ。日本と中韓、価格差拡大。再び最高値圏に
日本造船所が国内鉄鋼ミルから調達する造船用厚板の価格交渉が昨年末までにトン当たり2万円程度の値上げで決着し、再び過去最高値圏に達した模様だ。厚板の価格は2021年初めから世界的に高騰したが、中国、韓国では22年夏以降、鋼材市況の軟化に伴い急落。日本でも同年9月末の値上げで過去最高額に到達したのをピークに、23年3月末には若干下落していたが、今回それ以上の幅で価格が引き上げられたようだ。日本と中韓の厚板価格差のさらなる拡大は、国内造船所にとって国際競争力の根幹に関わる重い課題となる。 日本造船各社が国内鉄鋼ミルから調達する厚板は、契約更改の期間が半期か四半期に分かれる。値決めについても、半期または四半期中に納入された分の価格を、当該期末までに確定する「後決め」の形態が多いが、納入前の期初に価格を「先決め」するヤードも一部ある。 このように契約形態は各社で異なるものの、日本の大多数の主要造船所と鉄鋼ミルは昨年末、厚板価格の大幅な値上げで合意したようだ。 値上げで決着したパターンはさまざまだが、「契約が四半期単位で価格は後決め」の造船所が、23年10―12月調達分の厚板を対象に、価格の引き上げを受け入れたケースが多いとみられる。 一方、「契約が四半期単位で価格は先決め」の造船所が24年1―3月調達分を対象に値上げで大筋合意したケースや、「契約が半期単位で価格は後決め」だったヤードが、鉄鋼ミルの要請で契約更改を四半期単位に変更した上で値上げを受け入れたケースもある。 値上げ幅は、ベースとなる価格や調達先、契約期間などの違いから、造船所によってばらつきがあるが、「総じて2万円前後で決着した」(造船市場関係者)。これにより、日本造船所の厚板の調達価格は複数社が22年9月末の値上げ後の過去最高額を上回り、全体で見ても当時とほぼ同水準の過去最高値圏に達した。 複数の関係者によると、鉄鋼ミルは今回の厚板値上げの根拠について、「原料炭価格の上昇と為替の円安による調達コストの増加、インフレによる諸経費の増大を挙げている」(同)という。 日本造船所の厚板の調達価格は21年、世界的な鋼材価格の高騰を受けて2度にわたって大幅に値上げされた。さらに22年9月末の追加値上げにより、20年度の水準の2倍近くまで上昇して過去最高額に達し、造船各社の業績を圧迫してきた。 一方、中国の造船用厚板の価格も21年初めから上昇し、22年前半はじり高が続いたが、同年6月に鋼材市況の軟化で下げに転じ、夏場に大きく下落した。韓国でも足元の価格はピーク時から大幅に下げているようだ。 日本でも23年春に若干値下がりしたものの、両国の厚板価格は昨年10月時点で「日本がトン当たり12万―13万円なのに対し、中国は8万円程度」(今治船主)まで値差が拡大。日本造船所の世界シェアのさらなる低下を懸念する国内有力船主から、海外ヤードとの厚板の価格差に対する抜本的な対策を造船所に求める声が上がっていた。 こうした中、昨年末に日本側でもう一段値上げが進んだことで、日本と中韓造船所の厚板の価格差はさらに大きく開くことになる。国内造船所の経営者は「日本と中韓の鋼材価格差が異常に大きくなっていることは、日本造船所の競争力の根幹に関わる非常に大きな問題」と危機感をあらわにする。だが鉄鋼ミルとの力関係もあり、有効な対策は打ち出せていない。 日本造船所は20年末まで、新造船市場の低迷が続く中で操業を最低限確保するため、採算の厳しい新造船を各社が受注。海運ブーム期などに蓄えた内部留保を切り崩しながら我慢を続けてきた。 新造船価が上昇基調となった21年春先から採算点を超える成約を重ねられるようになり、その受注船の売り上げ計上が始まった今期(24年3月期)から、円安効果もあって業績はようやく回復期を迎えつつあった。 だが厚板価格のさらなる引き上げにより、建造コストが大幅に上振れするのは確実だ。世界的なインフレの影響で鋼材のほか、舶用機器などの材料費に加えて人件費、電気料金などが軒並み高騰する中でも回復しつつあった国内造船所の財務に、今年も日本だけの厚板値上げが重くのしかかる。
日本海事新聞社