小野寺系の「2023年 年間ベスト映画TOP10」 希望の灯を絶やさないために
人間を支配することの残虐性を糾弾した『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
以前から述べているように、自分たちが正しいのか、自分たちこそが悪なのではないかと内省する作品やクリエイターが多いのが、アメリカという国の良さだといえる。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』や『ナポレオン』は、強者による一方的な支配や犯罪を題材に、人間が人間の権利を奪い支配することの残虐性を糾弾している。とくに前者の徹底ぶりは言葉を失うほど激烈だ。 『バーナデット ママは行方不明』は、本国では2019年公開、『TAR/ター』は2022年の公開ではあるが、日本公開年の巡り合わせによって、日本の洋画興行ではケイト・ブランシェットが存在感を示したといえる。環境に潰されながら自分らしい生き方を取り戻していく女性と、環境を利用しながら男性による支配的な価値観を内面化している人物という、両極からのアプローチによって、現実の社会の不公正をあぶり出している。 日本においてはアメリカ本国のプロモーションに問題が発生したこともあり大きなムーブメントが起きにくい状況となったが、女性の地位が男性の地位に並んでいるとする社会状況を“まやかし”だとうったえ、革命を起こすべしと世界に発信する『バービー』の政治性も圧倒的だ。そして政治的だからこそ、この作品は面白い。 イランでは、女性に対する公権力の圧力の苛烈さや、不当な刑罰がおこなわれている状況が継続されている。ジャファル・パナヒ監督が、投獄されても自国にとどまり国内から映画を世界に届けることを映画作品そのもので宣言したように、映画は権力と闘うための矛となり盾となり得る。彼のような作家こそが、人権が蹂躙され続ける世界のなかで数少ない希望といえる。 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が、歴史的事件をギャング映画のような文脈で表現したように、北野武監督も『首』で戦国時代の群雄を現代のヤクザのように矮小化してみせたのも、日本においていまだロマンの的となっている「武士道」なる怪しげな思想を笑い飛ばす、現代に生きるコメディアンとしての矜持を、日本では珍しく見せることとなった。 アニメーション作品では、『君たちはどう生きるか』や『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が、新たなイマジネーションを発揮しているが、より先鋭的で革命的だったのは、『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』だった。キャンバスに絵を描くようにアニメーションを表現することは、高畑勲監督、宮﨑駿監督の悲願であり、これを成し遂げたという偉業が達成されている。この作品の存在が、アニメ表現そのものを次の段階へと運んでくれることになるだろう。
小野寺系