スタッドレスタイヤは着実に進化していた! 新型TOYO TIRES OBSERVE GIZ3の実力とは
TOYO TIRESの新しいスタッドレスタイヤ「OBSERVE GIZ3」の能力とは? 氷上をテストドライブしたサトータケシがリポートする。 【写真を見る】新型OBSERVE GIZ3の細部
10mの違いは大違い!
タイヤの評価というのはなかなかに難しい。というのも、まったくの同条件で比較しないと、違いがよくわからないからだ。 今般、タイヤの進化にまつわる非常に興味深い経験をすることができたので、報告したい。東京・東大和市の東大和スケートセンターで、TOYO TIRESの新型スタッドレスタイヤの試乗会が開催されたのだ。 TOYO TIRESの主力スタッドレスタイヤである「OBSERVE GIZ2(オブザーブ・ギズツー)」は、低温下でもゴムの柔軟性を保つ持続性密着ゲルや、20年以上培ってきた鬼グルミ殻を配合する技術で、雪氷路面で高いグリップを誇ってきた。 このスタッドレスタイヤがモデルチェンジを受け、「OBSERVE GIZ3」へと進化した。従来型と新型を、まったくのイコールコンディションで比較するというのが今回の試乗会の主旨だ。 会場には、トヨタ「カローラ・スポーツGX」(2WD)が2台用意され、それぞれが新旧のスタッドレスタイヤを履いている。サイズはもちろん共通で、195/65R15 91Q。そしてスケートリンクだから、温度や湿度などの路面コンディションは常に一定に保たれる。 スケートリンクに特設した試乗コースは、発進加速、スラーローム、定常円旋回、フルブレーキングと、想定できる走行バリエーションをすべて網羅していた。トーヨータイヤのスタッフの方によると、路面μは非常に低いとのこと。その滑りやすさは、無数のスタッドレスタイヤによってぴかぴかに磨かれた、北海道の夜間の交差点で遭遇するミラーバーンに匹敵するという。 まずはモデルチェンジ前の従来型、OBSERVE GIZ2でスタートする。 率直に言って、普通に走る分にはこのタイヤでもまったく不安はない。スラロームも定常円旋回も無難にこなし、フルブレーキングでも、“ガガガ”と、ABSの助けを借りながら、しっかり停止した。これだけの低μ路を、これだけ安定して走るのなら、これでいいじゃないか、と、思う。 続いて、新しいOBSERVE GIZ3を装着したカローラ・スポーツに乗り換える。すると、最初のスラロームで「なるほど!」と、独り言が出た。なにがなるほどなのかというと、ステアリングホイールから伝わる手応えが従来型とはまるで異なり、はっきりとタイヤの進化を感じられたからだ。 従来型でも滑ったりはしないものの、新型に比べるとステアリングホイールから手のひらに伝わる感触があいまいで、文字通り手探りで走る感覚だった。ところが新型では、タイヤが氷を噛んでいることがクリアに伝わってくるから、自信を持ってステアリングホイールを操作することができる。その情報の解像度の高さは、ブラウン管テレビと有機ELテレビぐらいの差があった。 続く定常円旋回でも、新型に大きな進歩の跡を認めることができた。従来型は突然、ズルっと滑ったのに対して、新型は「これからズルっときますよ」という予兆を感じさせてくれる。だから、どこまで攻めて大丈夫なのかという、安全のマージンを理解しながら走ることができた。 直線でのフルブレーキングでは、あくまで目視の感覚ではあるけれど、1割ほど制動距離が短い。また、ABSが“ガガガ”と、作動しているときの車体の姿勢が、左右にブレずに安定していることも新型の特徴だった。 なるほど、こうやって比べると、タイヤの違いがよくわかると納得するのと同時に、スタッドレスタイヤが着実に進化していることを肌で感じることができた。 ちなみに、材料の技術でいうと、氷より硬くアスファルトよりも柔らかい鬼グルミ殻が路面をひっかくことは、従来型から変わりはないという。いっぽうで、低温下でもゴムの柔軟性を保つ持続性高密着ゲルのゲル量を増量し、かつグリップポリマーの素材の変更などで、筆者が体感したような進化を果たしたという。 もちろん、素材だけでなくタイヤ表面のパターンにも改良が施され、溝の排水性能や路面との密着度を高めるなど、細やかな改良を加えている。 結果、TOYO TIRESの社内試験では、アイスブレーキ性能は22%向上、転がり抵抗は10%低減しているという。アイスブレーキ性能が約2割も向上したということは、仮にいままで50mで止まっていたのが、40mにまで短縮するということになる。10mの違いは大違いで、事故になるか、ならないかを左右する。 タイヤはどれも黒くて丸いから同じだと思いがちであるけれど、その性能やフィーリングは、同じブランドの新旧製品の間でも大きく異なる。それがはっきりとわかったのが、今回の収穫だ。 クルマの部品の中で地面と接しているのはタイヤだけで、大げさにいうとタイヤが命を運んでいる。自戒の念を込めながら、タイヤ選びにはもっと気を使うべし、と、記したい。
文・サトータケシ 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)