「生理・更年期」を経営者は無視できない 変わる女性活躍推進法と健診
女性従業員に対する企業の健康支援のあり方を、今後大きく変えそうな動きが2つ、厚生労働省であった。 【関連画像】グラフ:生理に伴う不快な症状が仕事に与える影響は? 1つは、厚労省の有識者検討会(「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」)がまとめた報告書に、企業が、生理や更年期など女性特有の健康課題についての取り組みを進めるよう、女性活躍推進法の改正を検討すべきだと盛り込まれたことだ。 背景には、女性従業員の約5割が女性特有の健康課題により「職場で困った経験」があり、約4割は「職場で何かをあきらめた経験がある」と回答しているという現状がある(経済産業省「働く女性の健康増進に関する実態調査」より)。日経BP 総合研究所の調査(下グラフ)では、生理に伴う不快な症状により「仕事や勉強の効率が落ちる」女性が75.4%、「ミスが増える」は27.8%、「休んでしまう」が24.2%など、女性の働きやすさが阻害され、仕事の生産性を下げていることが明らかになっている。 ●女性特有の健康課題への取り組みが「えるぼし」のインセンティブに 具体的に報告書では、女性活躍推進法で従業員101人以上の企業に公表が義務付けられている「一般事業主行動計画」に、女性特有の健康課題への取り組みの要素を加えるべきだとしている。 今までは①女性従業員の採用割合、②男女の平均勤続年数の差異、③労働時間、④女性管理職の割合という4つの基礎項目に加え、多様なキャリアコースや働き方改革などを評価する選択項目があったが、ここに女性特有の健康課題について追加される見通しだ。 あわせて、女性活躍を推進している企業が認定される「えるぼし」制度も、ヘルスリテラシーを高める研修などの取り組みや、生理だけでなく更年期症状や不妊治療にも使える休暇制度を創設している企業が評価されるよう、見直しを図るべきだとしている。
「生理・更年期」がキャリア障壁にならないために
これらを含む女性活躍推進法の改正は、労使の代表者などによる労働政策審議会(厚労相の諮問機関)でさらに協議されており、2025年の通常国会に提出、26年4月からの施行を目指す見通しだ。 筆者自身も、この11回に及ぶ検討会に委員として参加し、日経BP 総合研究所の調査結果を紹介するなど意見を述べてきたが、今まで日本の法律の中では、生理や妊娠・出産など女性特有の健康課題への対応は、あくまでも「母性保護」を目的としたものだった。働く女性が増え、社会構造が変わる中、女性がより働きやすく、活躍できる社会づくりを目指すために、女性の健康支援を国ぐるみで進める方針は画期的であり、必然であるともいえる。 ●定期健康診断に「月経困難症」「更年期障害」の質問を追加 もう1つの動きは、すべての企業で年に1回、実施することが義務付けられている「一般健康診断」に、女性の健康に関する項目を追加する方向で調整に入ったことだ。これは厚労省の「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」で議論されているもので、10月18日に公表された中間とりまとめ案では「一般健康診断問診票」に、以下の質問を新たに追加する案が提示された。 質問:女性特有の健康課題(月経困難症、月経前症候群、更年期障害など)で職場において困っていることがありますか。 ①はい、②いいえ この質問に「①はい」と答えた女性従業員には、健康診断を担当する医師は必要に応じて情報提供や受診勧奨を行うこと、企業側も職場環境の整備を検討することなどがまとめられている。一方、従業員個人のプライバシーにも配慮が必要であるとしている。 ●「女性版骨太の方針」にも「生理・更年期」 日経BP 総合研究所では数年前から、生理や更年期など女性特有の健康課題について調査・啓発活動を行ってきた。女性特有の健康課題を健診項目に追加すべきであることも訴求してきており、23年には自民党を中心にした議連「明るい社会保障改革推進議員連盟」の提言に盛り込まれた。その結果、「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2024(女性版骨太の方針 2024)」には、「事業主健診(労働安全衛生法に基づく一般定期健康診断)において、月経随伴症状や更年期障害等の早期発見に資する項目を問診等に加え、その実施を促進する」と明記され、今回の動きにつながっている。 日本の働く女性をめぐっては、就業者数は増えているものの、女性管理職比率の低さ、勤続年数の短さ、男女間の賃金格差、正規雇用の少なさなど課題が山積している。その中で、女性特有の健康課題について国や企業が向き合うことは、女性が快適に働き続けられる社会づくりに向けた前向きな一歩として、大きく注目される。
米川 瑞穂